前原誠司(衆議院議員)

国会議事録

国会議事録

第197回国会 衆議院財務金融委員会2018/12/07

○坂井委員長 次に、前原誠司君。

 

○前原委員 おはようございます。前原です。まず、世界経済の見通しにつきまして、先ほどの同僚委員とは重複しないように質問させていただきたいというふうに思います。

グローバル金融市場では、世界的な景気減速懸念が高まっております。

背景にありますのは、米中摩擦の深刻化、それに伴う中国の景気減速。最終的には、世界の景気を減速させるとの見方があります。

先ほど総裁が、IMFの見通しについて言及されました。下がっても三・九から三・七だから、それほど大した話ではないというようなニュアンスで受け取ったわけでありますが、下方修正は二年ぶりなんですね。

私は、きょうお配りをしている資料の一ページ、(資料1)ず上をごらんいただきたいんですけれども、これが予測値でございます。中国、日本、アメリカの経済成長率、右肩下がりでこれから下がっていくという形になっているわけでありますが。

特に総裁には、この下の米国の長短金利の推移を見ていただきたいんです。長短金利が逆転する。

普通なら、長期金利がより金利が高いというのが当たり前のことであります。しかしながら、アメリカの債券市場では、逆イールドという逆転現象が起き始めているということ、これが二番目の図表として示したわけでございますけれども、(資料2)二〇〇〇年以降でも二回起きているんですね。二〇〇〇年以降では、二〇〇〇年の前半と二〇〇五年の末、これが二回、逆イールドが起きておりまして、この逆イールドの後はいずれも景気後退になっている、こういうことでありますが、この逆イールドが起きている中で、アメリカの経済というものに絞ってお聞きをしたいというふうに思いますけれども、逆イールドが起きたことに対する総裁の見立て、見方をお話しいただきたいと思います。

 

○黒田参考人 委員御指摘のとおり、イールドカーブがフラット化してきて、米国において五年物国債の利回りが二年物国債を下回って、いわゆる逆イールドとなったということは承知しております。また、御指摘のとおり、米国においては、長短金利の逆転が起きた後に景気後退入りしたことが何度かありまして、マーケットの一部では、将来の景気後退のリスクを指摘する声も聞かれております。

ただ、昨今のイールドカーブのフラット化あるいは今回の逆イールドにつきましても、米国のFOMCでは、政策金利の緩やかな上昇予想、それからFRBの資産買入れによるタームプレミアムの低下など複数の要因があって、必ずしも過去の経験則が当てはまるとは限らないとの指摘もあるわけであります。

いずれにいたしましても、FRBは米国の経済、物価情勢などを見きわめながら適切な金融政策運営を行っていくというふうに見ておりますけれども、御指摘の要因も含めて、米国の経済が今後どうなっていくのかということについてはかなり幅広い議論が行われておりまして、景気回復が相当長く続いているとか、あるいは大幅な減税の効果が二〇一九年ないし二〇二〇年の前半までにはなくなってしまうということで、中長期的な米国の潜在成長率は二%程度と言われていますので、現在の三・五%成長というのはいつまでも続けられないわけでして、だんだん二%に収れんしていくのではないか。ただ、その時期とかテンポについては、まだいろいろな議論があるというところでございます。

 

○前原委員 今週のニューヨーク・ダウというのは、上がって下落し続けているということでございます。日経平均もかなり下がって、きょうは午前中は若干上がっているようでございますけれども。そのダウ平均が下がり続けている二つの大きな要因というのは、一つはこの逆イールド、もう一つは、今から質問いたしますけれども、ファーウェイのCFOが逮捕され、逮捕というか拘束される、こういうことの中で、米中経済摩擦というのがより深刻になっていくんじゃないか、こういう見立てがあっているわけであります。

実は、この国会で安保委員会でも私質問をし、外務大臣や防衛大臣ともこのことを議論したわけでありますけれども、総裁に、米中の今の問題というもの、今後の金融政策を取り仕切られる責任者として、米中の貿易摩擦をどう見ていくのかということについてお伺いしたいと思うんですが、まず私の意見を申し上げたいというふうに思います。

もうこれは経済摩擦ではない、私は覇権争いだというふうに思っています。ただ、新冷戦だと言う方もおられますが、これはイデオロギーの闘いではありません。単なる軍拡競争だけではないということで、米中というのは世界第一の経済大国、第二の経済大国で、相互依存性が極めて強いものですから、お互いが冷戦ということにはなかなかならないだろうというふうに思いますが、覇権争いの色彩が極めて強いわけですね。

例えば、もともとことしで改革・開放四十年でありますけれども、中国のGDPは二百倍になっている、貿易量も二百倍になった。公表されているだけで、軍事費というのは六十倍になっているんですね。その上に、一帯一路、海のシルクロード、陸のシルクロード、そして中国製造二〇二五、製造業ではまだまだ日本や欧米におくれをとっている。先端の技術において勝つということが世界の覇権を握ることになるし、また、先端技術が軍事に結びつくと軍事の覇権も握れる、こういう大きな戦略に基づいて行われている。

それで、アメリカは、それに対する警戒感を強めると同時に、技術を窃盗しているんじゃないか、盗んでいるんじゃないか、あるいは不当に国家が私企業に対するてこ入れをし過ぎているんではないかということ、そして、今回、ファーウェイとかZTEというものを、米政府、米議会、米軍あるいはオーストラリア政府はもうそれを決めたわけでありますけれども、要は、去年できた国家情報法という中国の法律が企業に対して情報を提供しろというものを定めていますので、結局、ファーウェイやZTEというものを使うと、全て情報が中国政府に漏れてしまうんじゃないか、こういうようなさまざまなコンフリクトというか、覇権争いの中での大きな問題が生じているということで、かなり、私は、一過性のものではなくて構造的なものである、こういう認識を持っているわけでありますが、総裁の御見解をいただきたいと思います。

 

○黒田参考人 私も実は委員と類似した懸念を持っているわけですが、中央銀行総裁として何か特別な知見があるわけではございませんので、最近お会いした中国の方とあるいは米国の方の御意見を踏まえて申し上げますと、貿易紛争というか、米中の二国間の貿易収支の不均衡というものが最初に出てきて、それが大きな議論になり、関税の、相互で報復関税をかけるというようなことになってきたわけですが、その後、御案内のペンス副大統領の講演というのが非常に包括的に、米国としての対中懸念というか、そういうことを示されたということも、これも米国や中国でよく認識をされておりました。

ただ、一方で、そもそもの始まりがやはり二国間の貿易不均衡ということでありますので、それに対応する対策というものを中国が提示し、米国が受け入れるということになれば、この関税の引上げ競争というようなものはある程度収束する、あるいは完全に収束しなくても鎮静化していくという可能性は、私は依然としてあるのではないかと。

今回のブエノスアイレスでの米中首脳会談で、関税の引上げを九十日間ストップして交渉するということになったわけですので、そういう可能性は依然としてあると思いますが、御指摘の先端技術争いとか地政学的な話とか安全保障の話とかいう話になってきますと、これは容易に解決できる話でもないし。

ただ、逆に言うと、潜在的にあった問題が顕在化して米中で冷静な話合いが行われれば、世界経済に何か異常な事態が起こるということは避けられるのではないかと思いますが、ただ、後者の問題は、御指摘のような、覇権争いと言うのがいいのかどうかわかりませんが、貿易問題を超えた非常に大きな問題ですので、これはなかなか簡単には解消されないのかなという感じを持っております。

 

○前原委員 私も、先ほど申し上げたように、世界第一の経済大国、第二の経済大国ですから、余り首を絞め合うと両方が失速する、世界全体が悪い方に行ってしまうということの中で、ある程度の言ってみれば圧力と妥協、こういうものは、特に、今総裁がおっしゃったように、関税の面では出てくると思います。

そして、貿易、アメリカからすると赤字、アメリカ全体の貿易赤字の四七%が中国です。二番目がメキシコの八・六ぐらいですか、日本が三番目で八・一ぐらいだと思いますけれども、半分が中国なんですね。ですから、ここの部分についてはある程度の話合いというのはできるというふうに思いますけれども、ただ、やはり先端技術、軍事、そしてそれを、アメリカから言わせると、先ほど十月四日のペンス副大統領のハドソン研究所での演説の話をされました。あれは、財界もアメリカの民主党もみんな賛成なんですね、あの演説の内容については。そういう意味では、かなり根深いものになっていくということの中で、話をもとに戻しますけれども、経済の見通しというのはなかなか難しいものもあるのではないかという認識の中で、引き続き質問をさせていただきたいと思うんです。

先ほど総裁が、FRBの話をされました。三・五%ぐらいまで政策金利を上げていくのではないかというふうに見られていたのが、十一月二十九日に公表した米連邦公開市場委員会、FOMCの議事要旨では、段階的な利上げという声明文の文言は次回以降の会合で見直す必要があるだろう、こういう言い方をしているんですね。つまりは、四半期置きに機械的な利上げをしてきた、しかし、これを一時停止する可能性があるということであります。

そして、パウエル議長自身も、十一月二十八日の講演では、金利は中立水準、つまりは、景気を過熱もさせないし冷やしもさせない、一番いい金利水準を中立金利と言うそうでありますけれども、三%ぐらいじゃないか、こういうことで、利上げの打ちどめ時期が近いということであります。

したがって、十二月のこの会合においては、恐らくマーケットはもう利上げするということは織り込んでいるというふうに思いますが、それが現段階においては最終的になるのではないかというふうに思っているわけであります。

このアメリカの金融政策のいわば修正、三・五まで機械的に上げていくということの中で、米中貿易摩擦そして世界経済の減速感、この中で言ってみれば修正するということでありますけれども、このアメリカの金融政策の修正が世界や日本、まあ日本の中央銀行の総裁でいらっしゃるわけですけれども、それがどういう影響を与えるか、その点についてお答えいただけますか。

 

○黒田参考人 まず、FRBの金融政策自体について直接的なコメントをするのは避けたいと思いますが、御案内のとおり、米国経済は現状極めて好調でありまして、失業率は四十数年来の低さ、そして物価上昇率もほぼ二%程度で、目標をいわば達成しているということですので、御指摘の中立金利に次第に政策金利を近づけていくということは当然であろうと思いますし、前任のイエレン議長のときからそれが始まって、現在のパウエル議長のもとでそれが続いているということであります。

ただ、そういう状況になってきますと、目標からすごく離れているときはどんどんやっていけということなんですけれども、もう目標はほぼ達成されていて、そして、そういう状況で市場の動向とか経済の動向を見ながら微妙な金融政策の運営をするという時期に来ていますので、余り、どんどん上げますとか、どこまで上げますとか言えるような状況でなくて、むしろ、目標はほとんど達成されているので、非常に微妙なかじ取りが必要となっているというときだと思います。

ですから、御指摘の中立金利というものについても、実はパウエル議長は、そうかちっと決まるものでなく、これは、経済モデルでいろいろ推計して、経済成長率とかその他から導き出される数字ですので、一義的に、確定的に決まるものではないということも言っておられるので、そういう、全体として目標が達成されて、微妙な時期に来ている中で、経済とか物価とか金融情勢を見ながらかじ取りをしていくという、ある意味で難しいというか微妙な時期に来ているということを示しているのではないかと思いますので、それがどういう影響を日本に及ぼすかというのはなかなか難しいんですが、一方で、これまで非常に懸念されていたのは、米国がどんどん金利を上げていく、そうするとドルがどんどん上がる、そうすると新興国から資金が流出する。新興国のいわゆる金融危機までいかないにしても、防衛的に金利をどんどん上げていかなければならないということになるのではないか、それが新興国経済にマイナスの影響が出るんじゃないかということが非常に懸念されていたわけですけれども、その話はむしろ和らいでくる。

他方で、今言ったような微妙なかじ取りの中で、ドルの対円、対ユーロといった先進国の通貨との関係がどういうふうになるのか、ここがまた微妙な感じになってきているとは思うんですけれども、全体としてそういった適切な対応をされていくこと自体は、まさに米国経済が順調で物価安定目標も達成されているということですので、それ自体が何か日本にとってマイナスになったり、あるいは日本の金融政策で何か対応しなくてはならないということにはならないと思いますが、ただ、そういう微妙な状況であり、かつ、米中貿易摩擦とかその他、ブレグジットとかほかの不確実要因もありますので、そこは十分注意して見ていきたいと思っております。

 

○前原委員 アメリカの中央銀行、そして今からヨーロッパの中央銀行の話を伺って、その後、いよいよ日本の金融政策についてお話をしたいというふうに思うのであります。

なぜ私がこういう話をしているかというと、もちろん世界経済がどうなっていくかという懸念が大前提にありますけれども、これだけ経済がずっといい状況が続くというのはなかなかないだろう、いずれは景気後退が来るだろうというふうに考えて、そして、アメリカはイエレンさんのときにテーパリングを行って、そして今、金利を上げるということをやってきていて、そして最終段階ぐらいかなと、今、黒田総裁がおっしゃったところまで来ている。

もう一つ、ヨーロッパ中央銀行、ECBですけれども、ECBにしても、日本銀行と一緒に金融緩和をやっているのかなと思ったら、もう、この表三を見ていただくと、資産購入額というものを減額し始めているんですね。減額し始めていて、そしてことしの十二月では、ドラギさんは、テーパリングを終了する、こういうことを言っているわけです。

私がちょっと総裁に見解を伺いたいのは、六月に発表しているんですね。六月に、十二月のテーパリング終了を目標とすると発表しているんですけれども、この六月の前の五月というのは、イタリア国債の利回りが急上昇したり、それから、それがスペインやポルトガルなどの周辺国にも波及するということで、極めて不安定な状況がヨーロッパにあったわけですけれども、それでも気にせずにテーパリングに行くということからすると、私は、やはり将来的な金融政策の幅というものを持っておきたいという意思のあらわれではないかというふうに思います。ECBが、もう、いろいろなことがあってもとにかく十二月にはテーパリングを終了するんだと言うような背景には何があるのか、どういう考え方であるというふうに認識されているか、お答えいただきたいと思います。

 

○黒田参考人 まず、ECBは、物価安定目標は

二%をちょっと下回るぐらいのところというインフレ率の目標について、それに向けて持続的に収れんしていくという見通しに立ってテーパリングを始めているわけであります。

具体的には、委員御指摘のとおり、二〇一八年十二月でネットの資産買入れは終了する、ただ、高いバランスシートはまだ維持したまま、それから、政策金利は来年の秋までは少なくとも上げない、秋に上げるとも言っていないわけですけれども。ということで、あくまでも物価安定目標に相当近づいてきて、しかも、もう収れんする見通しが立っているという中でそういうことを検討しておられるということだと思います。

それから、イタリアの国債の金利の上昇というものについては、ヨーロッパの中央銀行の中でいろいろ議論がされたようですけれども、今のところ、ほかのところに波及は見られていない。

それは、結局、イタリア独自の、イタリアの現在の政権が欧州委員会のアドバイスにもかかわらず財政赤字を拡大するということについてマーケットが懸念して、それも、イタリアの方が言っておられますけれども、これでデフォルトリスクが高まったということでイタリア国債の価格が下落しているのではなくて、今の政権がユーロから離脱するというおそれがあるんじゃないかということで下落しているという分析になっておりますが、今の政権はユーロから離脱する気はないということを言っていますし、その後、ある程度イタリア国債の金利も落ちついてきておりますので、少なくとも、これはユーロ圏全体の問題ではなくて、あくまでもイタリアの財政に関する問題ということなので、先ほど申し上げたような物価安定目標に向けて持続的に収れんしていくという目標の中で始めておられるということだと思います。

その中に、将来の景気後退に備えて政策余地を残しておきたいという気持ちがあるかどうかわかりませんが、あるかもしれません。ただ、そういうことは言っておられません。

〔委員長退席、藤丸委員長代理着席〕

 

○前原委員 やはり、さまざまな状況の中で、バランスシートはまだまだおっしゃったようにECBも高い状況ですし、FRBも高いですね。高い状況の中で、しかしながら、金融政策の余地を広げていこうという中で取り組んでいる。もちろん、それは慎重に、中央銀行の政策目標というのは物価安定ですから、これをしっかりと達成しながら、しかし、それをうまくそろりそろりとやってきたということだと私は思います。

さて、その中で、いよいよ日本の話をさせてもらいたいというふうに思うわけでありますが、ちょっと耳の痛い話をまずさせていただくと、七という表を見ていただきたいんですが、二%の物価安定目標は何回先送りされたのかということであります。何回したというふうなことを意地悪く聞くつもりはありません。つまり、ずっと二%の目標ということの中で先送りをされてきたということであります。

政策を変えてこられましたよね。今、総裁が日銀総裁になられてから六年目に突入をしているわけでありますが、総裁になられる前のターゲットは金利でした。それを、総裁になられた後に要は量に変更して、異次元の金融緩和、量的緩和というものをやられて、そして、二〇一六年の一月には今度はマイナス金利の政策を導入されて、金利ターゲットを復活するということでありますが、それから、その年の九月に、イールドカーブ・コントロールという形で、操作対象は再び量から金利へということになってきたわけですね。

ですから、当たり前だということなのかもしれませんが、グラフの四をごらんいただきたいのでありますが、この赤が国債購入額のネット増をあらわしたものでありまして、先ほど、二〇一六年の九月というのが政策変更、イールドカーブ・コントロールが導入されてからでありますけれども、そこから見事に赤は右肩下がりで下がっていって、八十兆円という、ふやしていくというものが今、四十兆円ちょっと、半分近くまで減っていっているということでございまして、要は、これは量から金利に変えたんだよということで説明はつくんですけれども、私が伺いたいのは、ことしの七月に微修正をされましたね。いわゆる長期金利をゼロにするということで、今まではプラスマイナス〇・一%というのを、総裁は会見の中で倍とおっしゃったんですね。倍ということは、プラス〇・二、マイナス〇・二の幅で許容する、こういうことですね。

五のグラフをごらんいただきたいわけでありますが、ちょうど、五のグラフというのは、微修正を行われて、いわゆる許容範囲を倍にすると言われたわけですけれども、許容というのは上に行ってもいいし下に行ってもいいわけでありますが、完全にマーケットはいわゆる金利上昇というものを容認したんだねという形で、この金利は上昇しているわけですね。

先ほど、アメリカのFRBが機械的に三・五まで上げようとしていたのが、もう打ちどめじゃないかということの中で、今、長期金利は下がっていますね、アメリカの。それで逆イールドが起きているという先ほどの説明がありましたけれども、そういうことで若干今は下がっているんですけれども、そういうものがなければ、国債のいわゆる保有残高も減っているし、ネットではふえていっているんですよ、いわゆる購入額が減っていっているし、金利の上昇もある意味で容認しているということになると、これは実質的にはテーパリングをやっているということになるんじゃないですか。

 

○黒田参考人 二〇一八年七月に行いました政策決定の一番の肝というか基本は、現在の大幅な金融緩和を粘り強く続けていく。それは、経済が好転してプラスのGDPギャップが続いている、労働市場も極めてタイトである、ただ、その中でも物価上昇率はまだ一%、そして予想物価上昇率は、一旦落ちたものが上がってきたんですが、このところずっとフラットだという状況ですので、まだ相当長くその金融緩和を続けなければならないという状況のもとで、二つのことを示したわけです。一つは、フォワードガイダンスとして、現在の極めて低い長短金利を当分の間維持しますということによって、早い出口の議論とかそういうことはありません、むしろ、今の非常に低い金利を当分の間続けますというふうにフォワードガイダンスで約束したということが一つ。

もう一つが、委員御指摘のとおり、資産買入れについて弾力化いたしまして、国債の金利、イールドカーブ・コントロールでは十年物国債金利をゼロ%程度というふうにしてきたわけで、変わっておりませんが、ことしの前半はややリジッドになって、極めて変動が少なくなって、経済とか物価とか、あるいは国際的な金利の動きにはほとんど反応しない。値幅が非常に小さくなったものですから、しばしば取引が成立しない。需要があっても供給がない、供給があっても需要がないということで、そういうことが何度も起こったわけでして、これは国債市場が機能がちょっと低下しているということでしたので、これまでプラスマイナス〇・一%の狭い範囲で動いているのはいかがか、もっと幅広く上下しても、ゼロ%程度というイールドカーブ・コントロールが守られる限りは問題ありません、例えば今の、従来の倍ぐらいになっても問題ないということを申し上げたわけでして、あくまでもゼロ%程度というイールドカーブ・コントロールの操作目標は変えずに、しかも、フォワードガイダンスでそういう低い金利を当分続けますと言った上で、そういう、より国債市場が機能を発揮するようにということにしたわけでございます。

その後の状況を見ますと、国債の取引はやや活発化し、取引が成立しないという日も極めて少なくなっております。それから、金利も御指摘のように上がったり下がったりしておりまして、その多くは、国内経済の動きもさることながら、国際金利の動きにかなり反応するようになっているということでありまして、その限りでは、国債買入れについて弾力的にし、ゼロ%という目標は変えずに国債市場の機能を改善するということは一定の成果を上げたと思いますし、それ自身はあくまでも現在の強力な金融緩和を長く続けるということをしっかりしたものにするために行ったということでございます。

〔藤丸委員長代理退席、委員長着席〕

 

○前原委員 以前、総裁とは議論させていただきましたけれども、私は二〇一六年の九月の政策変更というのは一定評価をしているんです。つまりは、量的拡大をやっていると限界が近づくということの中で、量から金利へと政策目標を変化されて持続可能性を高められたということについては私は評価をしているんですが、私が申し上げたいのは、二%の物価目標ということを言って、本来であれば、それを実現をするということを目標にされているわけですね。何回も何回もそれを先送りされている。そして、それがいよいよできるというふうなことのいろいろな条件が整っているということをおっしゃるのであれば、いわゆる買入れ価格が減るにしても、金利というものについて、その幅を倍にする、そうしたら、金利が上がっているということになると、誰がどう見たって、国債の買入れについてはいわゆる減少しているし、そして金利の上昇も認めているということになったら、これはテーパリングというんですよ。

本来であれば、二%の物価目標に到達するためには、むしろ追加緩和をする。日銀の議事の中には、そういう主張もされている方、おられますよね。本来ならそうしなきゃいけない。

でも、今総裁がおっしゃった中で、一つの要因として、いわゆる副作用として、国債市場の機能低下をしたんだ、したがって、そんなに追加緩和どころじゃないんだという話だったと思いますけれども、しかし、国債の回数とか、何か変えられたんですよね。ということで、弾力化をされる中で、国債市場の機能低下というのは一旦は食いとめられていると私は思うんですね。だったら、二%に上げるために、こういう金利についても、さらなる、二%に到達するような、コミットメントされる、フォワードガイダンスされている以上は、それに対しての行動をとられたらいいのに、なぜとられないんですか。

そして、言ってみれば、こういう、はたから見たら完全にテーパリングの状態になっているということを放置していて、でも、口では二%の物価上昇を実現しますということを言っていたら、この人、本気でやるつもりはないんだなというふうに思っちゃいませんか。

 

○黒田参考人 そこは、七月に先ほど来申し上げているフォワードガイダンスそれから国債買入れの弾力化というものを決めた直後に、委員御指摘のような誤解があったと思うんですが、変動幅を大きくするのを許容するというのは、経済とか物価とかあるいは金融市場、国際金利の動きなどを反映して変動幅が大きくなるのが当然なんですけれども、そういうことでなくて、これはむしろ金利引上げを容認するというふうなマーケットの一

部に見方があって……(前原委員「一部じゃない、全部」と呼ぶ)そういうのがあって、金利が急上昇するおそれがあったので、指し値オペを何度かやって、そういうものは否定することははっきりさせておりますし、そうした中で、十年債の金利の動きも上下していますので、その上下の動きは、基本的に、今、国内経済や特に国際的な金利の動きにフォローして変動が大きくなっているということなので、それ自体は、国債市場の機能を改善

する一方で、ゼロ%のイールドカーブ・コントロール自体はきちっと維持されている。

そのもとで、いわばもう内生変数になっている国債買入れ額が、確かに年率でいうと半減ぐらいしているわけですけれども、ゼロ%程度という十年物国債の操作目標はきちっと維持されているということで、何か、いわゆる、外国の人が時々、ステルステーパリングではないか、こっそりやっているんじゃないかというような議論がありますけれども、私どもはそういうふうには全く考えておりません。

 

○前原委員 ステルステーパリングというか、実際、見たら、金利もそして国債買入れもテーパリングに見えているわけです。そして、金利も、倍とおっしゃったのは、もうちょっと上げていいんだなとみんな思っているわけです、一部じゃないです、思っている。

さまざまなこういう金融政策をやっていく中で、もちろんトライ・アンド・エラーだと思うんです。

試行錯誤だと思うんです。そして、いろいろ、先ほど僣越ながら評価をすると申し上げたように、量から金利に変えられて、そして持続可能性を高められたということについては一定の評価をしながらも、ただ、問題なのは、やはり一番初めに二年で二%と言っていたのが、もう六年ですよ。ならない。ならないし、それをやろうとしたら、さまざまな副作用が出てくるということがわかってきたわけじゃないですか。

その一つが、今総裁がおっしゃった国債市場の機能低下ですよね。これは運用を弾力的にするということでやられていると。もう一つ、おっしゃらなかったけれども、一番大きな問題が、副作用が起きているじゃないですか。それは金融機関のいわゆる収益性の悪化ですよ、金融機関の。これが最大の問題じゃないですか。つまりは金融機関の、銀行の六割が本業赤字ですよね、今。こういうことの中で、結局は、言ってみれば、二年で二%という無理をしても、副作用が出てきてなかなか難しいねということの中で、二%には到達しないけれども、うまく、まあ何とかということで今維持されているわけじゃないですか。

私は、先ほどステルステーパリングという言葉じゃなくて、やはり二%の口先介入というのはやめられるべきだと思いますよ。二%というのは諦めない、中長期の目的として諦めないけれども、しかしデフレはよくない、したがって、一%近傍の物価に何とかコントロールする。そのための現実的な、先ほどFRBもECBも申し上げたとおり、景気後退というのは必ず来るんですよ。日本の経済のファンダメンタルズが今いいとおっしゃるのであれば、だったら、余地を残すというようなことを堂々と言う。それは、まずは掲げられたものを少し変えて、中長期の目標にされて、そして、デフレはよくないのでコミットメントし続けますということでいいんじゃないですか。いつ達成できるかわからない二%というものは中長期の目標なんだとおっしゃったらどうですか。

 

○黒田参考人 現在の物価安定の目標というのは、二〇一三年の一月に金融政策決定会合において二%の物価安定目標を定めて、それをできるだけ早期に実現するということを決定しているわけです。

それを反映して、政府と日銀の共同声明においてもそれがうたわれているわけでございます。それ自体は現在も維持されているし、変える必要があるとは思っておりません。

ただ、それを踏まえて二〇一三年の四月に量的・質的金融緩和を導入した際は、二年程度を念頭に置いてということでやったわけです。そのときの考え方は、できるだけ早期に実現するということであっても、ある程度タイムスパンがわからないと、物すごく離れているわけですから、当時、デフレで、毎月〇・五から〇・七%ぐらい物価が下がっていた時期ですので、非常に離れている。

それを、二年程度を念頭に置いて、このくらいのことをやれば、他の需要に比して一定であれば二%になるだろうということで、リバースエンジニアリングみたいなものですけれども、ああいう大胆な金融緩和政策、量的・質的金融緩和政策というのを導入したわけですね。

ただ、その後、二〇一四年の夏には確かに物価上昇率も一・五%くらいになり、予想物価上昇率もそれに近いところまで上がったんですが、御承知のような消費税引上げ後の消費の低迷が二四半期続いた。それよりも大きかったのは、その夏から始まった、石油価格が下落していくわけですね。

百十ドルぐらいから、最終的には一年半かかって三十ドル以下に落ちるわけですが。それが非常に大きな影響を及ぼしてきたので、それに対応して、量的・質的金融緩和を拡大したり、マイナス金利を導入したり、いろいろしたわけですが、それによってデフレでない状況になり、また、経済も順調に回復して、緩やかな成長を続けているわけですが。

先ほど来申し上げているとおり、いわゆるデフレマインドというか、賃金、物価がそれほど上がらないということを前提にした行動や慣行が企業や家計に根強くあるという中で、二年程度というのはもう外しているわけですね。できるだけ早期にということを、二〇一三年一月の政策決定会合で決めたことに従って今もやっているということであります。

そういった面で、御指摘の、あのときは二年程度と言っていたのに、もう五年半かかってまだ達成できていないではないかということについては、私自身も残念だと思いますけれども、それぞれの時期にいろいろな経済状況、ショックがあって、それに対応して、できるだけ早期に達成できるような措置はとってきたと思っております。

今のところ、現在の政策を継続することによって、プラスのGDPギャップを続け、タイトな労働需給を続けていけば、賃金、物価も上昇していって、物価は徐々に二%に近づいていくという考え方に立っているということでございます。

 

○前原委員 時間がなくなってまいりましたので、最後の質問通告はちょっとあわせてさせてもらいたいんですが、若干本音を今おっしゃったと私が思っているのは、政府と日銀の共同声明、これは私が経済財政担当大臣をしているときに、アコードのようなものをということで、それをリバイスされたわけでありますが、そこに書かれちゃっているんですね。

ですから、そこがやはり一つの、もちろんそれは変わりなくやっていくよということですが、もう誰もが二%を本気で達成しようなんというふうに思っているとは思わないんですね。だって、もう五年半、六年近くたってできていない、なかなかこれからも厳しい、世界経済は減速するんじゃないか、こういう状況ですよね。それは共同声明に縛られている。

まず一つの質問は、この共同声明というのは見直すべきとは思われないかということが質問の一つ。

もう一つは、これから、逆に言うと、景気後退になった場合に、非常に日銀の場合は限られた施策しか残っていないと思うんですけれども、何があるんだろうかということなんですが、もう一遍、量的拡大に行きますか、あるいは金融機関に極めて不評な、体力をおとしめるような、マイナス金利の深掘りをやりますか。あるいは、もう一つ現実的なのは、複利金利、今〇・一ですね。

 

○坂井委員長 申合せの時間が超過しております。

 

○前原委員 はい。

これを下げる、こんなことが考えられると思うんですけれども、まず、共同声明というのはこのまま続けるということでいいのか。それとも、景気が減速したときに、追加緩和ということの要求が私は出てくると思いますよ、そのときに何がとり得るのか。その点についてお答えください。

 

○坂井委員長 黒田総裁、簡潔にお願いをいたします。

 

○黒田参考人 はい。

政府との共同声明については、変更する必要があるとは考えておりません。日本銀行自身が決定した二%の物価安定の目標をできるだけ早期に実現するというために必要な金融政策を引き続きとっていきたいというふうに思っております。

それから、仮に、内外のいろいろなショックで景気後退あるいは不況になったときにどういった対応ができるかということでありますけれども、長短金利操作つき量的・質的金融緩和の導入時に公表したとおり、手段としては、確かに、政策金利の引下げあるいは長期金利操作目標の引下げ、資産買入れの拡大、マネタリーベースの拡大ペースの加速などいろいろ考えられますけれども、具体的な手段については予断を持つ必要もありませんし、やはりコストとベネフィットをよく考えて決めないといけないと思いますが、現時点でそういったことが必要になるというふうには考えておりません。

 

○前原委員 終わります。ありがとうございました。

 

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