前原誠司(衆議院議員)

国会議事録

国会議事録

第190回国会 衆議院財務金融委員会2016/05/25

前原委員 民進党の前原でございます。
 我が党は、先ほど、消費税率引き上げを先送りする法案を国会に提出をいたしました。私も、財務金融の担当者として党の決定には組織人としてコミットメントしますが、きょうの質問は、少し包括的な観点から議論をさせていただきたいと思います。
 まず財務大臣にお伺いしたいというふうに思いますけれども、一―三月期のGDP一次速報値、これは〇・四%プラスとなりまして、二〇一五年度の実質GDP成長率は〇・八%となりました。年初の原油価格の下落、あるいは中国などの新興国経済の先行き不安から、お正月明けから株価は下落をして、株価、為替のボラティリティーが大きくなっていたことを考えますと、逆に言うと、一月―三月がプラスということは、よく踏みとどまった方だと私は思います。
 ただ、二〇一四年度がマイナス〇・九%、その中でも、GDP、これは六割を個人消費が占めるわけでありますけれども、二〇一四年度がマイナス一・七、二〇一五年度がマイナス〇・二、前年度から回復傾向にあるといっても、この六割を占める消費がマイナスであります。
 安倍首相と議論をすると、消費増税を行ったことの影響だということをずっとおっしゃるわけであります。消費増税だけが原因だと私は思っておりませんが、現下の経済状況を含めて、この消費低迷の原因について、財務大臣のお考えをお聞かせください。

 

髙鳥副大臣 前原委員にお答えをいたします。
 個人消費の動向でございますけれども、おおむね横ばいで推移をしております。ただし、消費税引き上げ以降の回復は、総じて力強さを欠いていることは事実でございます。この背景には、以下のような要因が関係していると考えております。
 まずは実質賃金。二〇一四年度は、消費税率引き上げや輸入物価の上昇がございまして、実質賃金を押し下げました。ただし、二〇一五年春以降、マクロ全体で見た総雇用者所得は、名目、実質で増加傾向となっております。
 また、消費者マインド。これは、デフレマインドの払拭に時間を要する中、子育て世代や低所得者を中心に、先行き不透明感等から消費を抑制している可能性がございます。
 それから天候不順。これは、二〇一五年四月から六月期の冷夏、降雨や、十―十二月期の記録的な暖冬。
 そして最後でございますが、耐久消費財の不振ということがございます。これは、消費税引き上げに伴う駆け込み需要やそれ以前の増加を背景に、耐久消費財の減少が続いていることなどが考えられます。

麻生国務大臣 これまでの消費の低迷の要因については、今、内閣府の説明もありましたけれども、現在の経済状況というのを見ますと、御存じのように、企業収益は過去最高ということはもうはっきりしていますし、雇用者報酬も、実質で見ても前期比一・三、前年同期比で二・七ということになっていますし、有効求人倍率を見ましても、二十三、四年ぶりの高水準ということになっておりますので、ファンダメンタルズは確かなものなんだと、私どもはそう認識をいたしております。
 これを個人消費の拡大のためというのは、ふえた分が預金がふえていっているというのではなくて、それが消費に回らず預金ということになっておるんですが、私どもから見ましても、経営者も同じような感覚の方が多いように見受けますけれども、やはりデフレが二十数年も続きますと、金利がつかなくても、物価が下がることによって金の値打ち自体が相対的に上がってくるというところもあって、何となく、一日待てばあしたはまた安くなる、あさってにはまた安くなるという心理がある間はなかなか消費に回っていかないという面は僕は避けられないものだと思いますので、これは企業収益にも、さらに賃金を引き上げてもらいたい、例えば内部留保が五十兆たまっているんだったら、設備投資は幾らにしましたかと言ったら五兆、賃金は幾らふえたんですかと言ったら五千億というのが実態ですから、そういった意味では、やはり引き続きこういったものをみんなで押し上げるためには、個人消費というのはGDPの六〇%を超えておりますので、そこのところをきちんと時間をかけて押していくというか支えていくということが、民需主導の経済というものをつくり上げるためには避けて通れぬところだろうと思っております。

前原委員 後で伺おうと思ったんですが、今、財務大臣がそういう御答弁をされましたので、どうしても聞きたいことがあります。
 G7で財務相・中央銀行総裁会合が行われましたけれども、予定どおり消費税は引き上げるということをおっしゃったということでありますが、これについて、おっしゃったのか、それは国際公約と捉えていいのか。その点についてお話しください。

麻生国務大臣 G7におきましては、午前のこの委員会でも話が出ていましたけれども、海外から、スタンダード・アンド・プアーズとかフィッチとか、余り信用できるかどうかは別にして、こういった数字を出す業界の中において日本の国債というものが下がっている大きな理由の一つが、やはり財務比率が一番大きな理由だということになっておりますし、そういったものによって日本の国債の金利が、普通、そういうのは下げられると金利は上がるものなんですけれども、そういうのが引き下げられたら金利は逆に下がるというような、これだけ信用がないなんというものもいかがなものかと思いますけれども、そういったような形になっておる状況の中にあって、やはり、きちんと日本は財政というものに取り組んでいくという姿勢は私どもはきちんと示しておかない限りは、これはなかなか、例えばそういったトリプルAまで戻っていくとか、そういったことになりにくいと思っておりますし、それは結果として民間の資金調達にも影響を与えてくるという面もありますので、財政というものを考えたときには、この消費税というものは極めて重要な要素を占めておると思っておりますので、私どもとしては、従来どおりということをG7の中でも申し上げております。

前原委員 確認ですが、国際公約と捉えてよろしいですか。

麻生国務大臣 私どもは、日本政府としてこれをずっと申し上げ続けてきておるので、国際公約ととるかどうかは別にして、私どもとしては、こういったものをきちんとやらせていただくということを申し上げ続けてきておるところであります。

前原委員 財務状況が悪いのにもかかわらず金利が下がっているということをおっしゃいましたけれども、今からちょっと日銀総裁とまた議論をさせていただきますが、金利が下がっているんじゃなくて、金利を下げているんですよ。これは金融政策によって無理やり下げている。
 きょうの議論のポイントの一つは、先ほど、内閣府の髙鳥副大臣がおっしゃったように、もちろんいろいろな要因があると思います。実質賃金が減っているだけが問題ではないというふうに思いますけれども、しかし、この金融緩和の副作用というものもちゃんとわかった上で処方箋をしっかり書いていかなくてはいけないということで、少し、日銀総裁と改めて議論をさせていただきたいというふうに思います。
 黒田総裁には常に私は申し上げておりますけれども、今の日銀の金融緩和策は行き過ぎだと思っています。金融緩和が要らないと言っているのではなくて、行き過ぎだと言っているわけです。私が経済財政担当大臣をやっていたときは白川さんが総裁でしたけれども、この方は慎重過ぎたんです。白川さんは慎重過ぎて、黒田さんは私からするとやり過ぎている。ですから、白と黒の間の灰色がいいのではないかというのが私の意見であります。(発言する者あり)
 つまりは、二年で二%の物価目標というものを実現するためにこの異次元の金融緩和を行うということをやっておられたわけでありますけれども、これも後で見ますけれども、かなり先送りされていますよね。
 私は金融緩和自体は否定していないということは繰り返し申し上げたとおりであって、白川総裁のときに私は日銀の政策決定会合に全て出て、もう少し大胆な金融緩和をすべきであるということを申し上げ続けてきたわけでありますので、金融緩和というものが重要な役割を果たすという面はあると思うんです。
 それで、黒田総裁がこの金融緩和をやろうとされていた背景というのは、二つ、私の理解では動線があると思っていまして、一つは、大量に国債を買うと金利が下がります。金利が下がると貸し出しがふえるのではないか、お金が借りやすくなりますから。そうなると、会社は設備投資がふえる。あるいは、個人は車とか耐久消費財を買う。あるいは、マイホーム、住宅を買う人が出てくるかもしれないということで、実体経済にプラスの効果が出てくるのではないか。
 もう一つは、これは企業の動線ですけれども、金利が安くなる、そうすると他国との金利差が広がる。特にアメリカは、テーパリングから、今度は金利を上げるという政策になっていますので、言ってみれば日本と真逆の金融政策をやっているわけでありますので、金利差が広がって、そして円安・ドル高になり、為替効果もあって輸出が伸びるのではないかという期待もあって、企業の業績がよくなる。株価も上がる。そのことによって、先ほど麻生大臣がおっしゃったように、内部留保に回すのではなくて、設備投資とか、あるいはそれが賃金というものに対していい波及効果を生む。こういうものを求められていたということが一つの大きなポイントだと思うわけです。
 時間が限られていますのでその検証を一々やりませんけれども、住宅建設にしてもなかなか伸びていないし、また、先ほど、企業は最高の収益だとおっしゃった。そのとおりです。二〇一二年の東日本大震災の後の景気の谷を一〇〇とすると、大体今は企業収益は一四三ぐらいまでいっていますから、かなり企業利益は上がっていますね。ただ、その中の内訳をいうと、四三のうち、内部留保が三〇%ぐらい、そして設備投資が一四で、賃金はほとんど名目でも上がっていない。こういう形になっていると思います。つまりは、企業利益というものが、かなりが内部留保にとどまっていて、そして、住宅建設もさほどふえていないしというような状況になっているのではないかと思います。
 それで、私が問題としたいのは、そういう効果を期待されたというその方向性については理解をしているわけです、しかし、二年で二%というものを実現するために、異次元の金融緩和、初めは五十兆でしたっけ、というものをやられた、年の拡大が。それで、一昨年の十月の金融緩和がまさに象徴だと私は思うんですけれども、追加の金融緩和をされましたね。あのときに私が日銀から説明を受けたのは、原油価格が下がり始めた。原油価格が下がり始めたことによって、こびりついたデフレマインドに戻ってしまう。戻ってしまうことは、これはよくない。したがって、追加の金融緩和をし、そして円安にして、輸入物価を上げることによってデフレを脱却するということをやるということなんです。
 こういう説明を私は受けたわけでありますけれども、これは、言ってみれば、いわゆる需要と供給が逼迫してデフレからインフレになるというよりは、かなり無理やりコストプッシュ型でインフレを起こすということをやっておられるし、一昨年十月の追加緩和というのはまさにそういう面があったということは報告をいただいているわけでありますけれども、そのことが結局個人消費を押し下げることになっているんじゃないかということを私は従来から申し上げているわけです。
 きょうお配りをしている一ページ目のグラフをごらんいただきたいわけですが(配布資料)、確かに、先ほど、財務大臣あるいは髙鳥副大臣がおっしゃったように、いい数値も出ているんです。例えば企業の利益は上がっている。そのとおりです。そして総雇用者報酬も名目でもふえている。そのとおりです。ただ、これを見ていただくと、これは、政府から出された、日銀から出されたものをベースにやっているわけでありますけれども、これは二〇一〇年の平均を一〇〇としています。二〇一〇年の平均を一〇〇としていて、消費者物価というものはどうなっているかというと、この上のものです。確かに今はまた円高に若干なってきましたので、また、原油価格が下がっているということも踏まえて、輸入物価は下がっている。しかし消費者物価はある程度上がっている。
 そうすると、二〇一〇年と比べて名目賃金がほとんど変わっていませんから、物価上昇分を割り引いた実質賃金とか、あるいは実質可処分所得というのは、言ってみれば、四年間マイナスに沈んでいるわけですよ。先ほど、前年比よりプラスになったとおっしゃいますけれども、前から比べると沈んだままなんです。
 こういう実質賃金、実質可処分所得が沈んでいることが、つまりは、金融緩和の副作用というものがこの個人消費を冷え込ませている要因になっているんじゃないかと私は思っているんですが、日銀総裁はどう思われますか。

黒田参考人 この三年間、具体的に申し上げますと、二〇一三年の四月に量的・質的金融緩和を導入いたしまして、それ以降、委員御指摘のとおり、二〇一四年十月にこれを拡大し、また、ことしの一月にマイナス金利つき量的・質的金融緩和という形に拡充したわけでございます。
 その間、基本的に経済状況は改善してきていると思います。この点は、委員も御指摘のとおり、まず、企業部門では過去最高水準の収益を上げておりますし、家計部門でも、失業率が三%台前半と、ほぼ完全雇用の状況にあります。そして、雇用者数がふえて賃金の上昇は、確かにやや緩慢というか、私どもはもっと上昇してくれることを期待しておったんですけれども、そこまでは行っておりませんが、しかし、雇用者数がふえて賃金も緩やかに上昇しているということで、雇用者所得は緩やかな増加を続けております。
 そうしたもとで、一昨年の労使交渉、労使間の賃金交渉で二十年ぶりにベースアップが復活して、ことしも三年連続でベースアップが実現している、中小企業においても賃上げの動きが広がっているということでありますので、全体として、企業、家計の両部門において、所得から支出への前向きの循環メカニズムが働くもとで経済は緩やかな回復を続けていると考えております。
 ただ、委員御指摘のとおり、消費が必ずしも十分な強さを持っていないということは事実でありまして、その背景につきましては、先ほど、内閣府の副大臣から詳しく御説明があったようなことが背景にあると思っておりますけれども、今後とも消費の動向については十分注視してまいりたいと思いますし、その大前提として、賃金の上昇そして雇用者所得の上昇が続いていくということが不可欠でございますので、その点についても十分に注目してまいりたいというふうに思っております。

前原委員 私の質問にはお答えを今直接いただいていないんですね。
 経済は緩やかに回復しているというのは、そのとおりだと思います。我々が言うと若干語弊があるかもしれませんが、アメリカ経済の回復基調と軌を一にしていますし、それがないとやはり円安には、こういう金融緩和をしてもここまではならなかったのは、これはもう間違いないと思いますし、総裁もお認めになることだと思うんです。
 私が申し上げているのは、物にはやはり程度というものがあるでしょうと。先ほど灰色と申し上げた。何か不規則発言で、評論家みたいな話だと。評論家ではなくて、私は、真ん中のいわゆる金融緩和に戻すべきだと言っているわけです。二%の物価目標は、これはもう中長期の目標にしたらいい。二%の目標はそれでいいんですよ。だけれども、二年でやると言っていてもう三年以上たっていて、私からすると五回、総裁からすると四回、先送りしているわけですよ。これは本当に、オオカミ何とかになるわけです。それがコミットメントなんだと言えば、それはそうなんでしょう。
 ですけれども、私の質問は、やり過ぎの金融緩和というものが実質賃金、実質可処分所得のいわゆる落ち込みを招いて、つまりは消費者物価、輸入物価の上昇を招いて、それが個人消費の落ち込みを招来しているのではないか。つまりは、GDPの六割を占める消費というものに悪影響を及ぼして、それが実は副作用として経済全体の足を引っ張っているのではないか、それについてはどうお考えになりますかということを聞いているわけです。

黒田参考人 為替レートの動きが消費を含む経済全体にさまざまな影響を与えることはそのとおりでありまして、三年前の量的・質的金融緩和の導入以前と比べますと、為替レートが円安になっていることは事実であります。もっとも、先ほど委員も御指摘のとおり、このところ若干円高方向に進んでおりましたけれども。
 そうした中で、その影響が販売価格に転嫁するという動きが当然出てまいりますので、そういったものの価格が上がっていくということは事実でありますけれども、それにとどまらず、その他の物品も価格が上がってきております。それは、いわゆるコストプッシュとディマンドプルという分析がございますけれども、コストプッシュであっても、それだけでは、もし本当にコストプッシュだけであれば、需要が相殺され、あるいは減少してしまいますので、結果的に価格が上がらないということになってしまいます。
 したがいまして、コストプッシュの面があったことは事実でありますし、為替の下落がそういった要素を含んでいることも事実でありますけれども、それ以外に、やはり需要が増加して需要が支えたという面もあって、こういった物価の、足元では原油価格の下落でほぼゼロでございますけれども、物価の趨勢、エネルギー品目を除いたところで見ますと一%ぐらい上がっているわけですけれども、やはりその背景には、先ほど申し上げたような、全体としての景気回復に伴う雇用所得環境の改善とか、あるいは、長い目で見たところの予想物価上昇率の上昇といった要素もあるのではないかと思っておりまして、そういった意味では、委員御指摘のその金融政策、特に、日米の金利格差が円・ドルレートに影響を与えて、それが輸入物価を上げてコストプッシュ、それが消費に影響したのではないかという点は、そういう要素があることは認めますけれども、それ以外のいろいろな要素があって、全体として物価の実勢、趨勢が高まってきている。その背景には、やはり、経済の回復と雇用所得環境の改善というものも大きくきいているというふうに思っております。

前原委員 先ほどから申し上げているように、財政政策とか金融政策というのはカンフル剤ですから、これは政権が違っても、必要性は認識しているわけです。でも、それに頼り過ぎてはいけないということの中で話をしていて、そして今の金融政策というものは、ダッシュで走っている。ダッシュで走って二年で到着すると思っていたのが、ダッシュで走り続けて、さらにスピードを上げても、逃げ水のように物価上昇目標が遠のいていっている。そのことによって息切れをし始めているし、副作用も出てきているのではないかということを申し上げているわけです。
 二ページをごらんください(配布資料)。これはちょうど、民主党政権の三年三カ月、安倍政権の三年三カ月、比べられるようになったわけでありますが、雇用のところ、失業者とか有効求人倍率というのはよくなっているわけです。これはもちろん、そういう政策効果と、あとは世界の景気がよくなっていった、アメリカの経済がよくなっていったということがやはり大きな要因でありますし、それは日本としてはいいことだというふうに思うんですが、その中にあって、この民間最終消費だけは、むしろ民主党政権の末期で落ちているわけですよ、実質で言うと。
 そこは、先ほどからいろいろなことをおっしゃっていますけれども、真摯にもう一度この金融緩和、金融政策の副作用というものを見られて、金融政策は万能じゃないんだというところで持続可能な巡航速度に落とすべきではないか。まあ、聞いても、恐らく物価の目標は変えられませんよね。
 三ページをごらんください(配布資料)。私で言うと五回、黒田総裁で言うと四回、先送りをされているわけですが、二月の予算委員会で私が質問したときに、量、質、金利、金利というのはマイナス金利、この三つというのは最強の組み合わせなんだ、最強の組み合わせで必ずやり遂げますということをお誓いしますとおっしゃっているんですよ。その後にもう一遍延期されているんですよ。最強のものだったら実現してくださいよ、ちゃんと二%を。私はやるべきじゃないと思っているんですよ、中長期の目標にすべきであると思っていますけれども。できていないのに、最強のものを手に入れたからやるんだと言って、総裁いわく四回、私からすると五回、先送りしているわけです。
 こういうことはいけないので、やはり一%の物価安定目標に変更して、一%の安定目標というのは大事だと私は思いますよ。それを実現するということに変えるべきだということを、お答えありますか。今の政策を続けるわけでしょう。私のアドバイスは聞き流されますか。

黒田参考人 日本銀行は、二〇一三年の一月に、物価安定の目標を消費者物価の対前年比上昇率で二%とし、これをできるだけ早期に実現するということにいたしました。この目標を変更する考えはございません。
 なお、この二%というものについては、これも委員御承知のことと思いますけれども、消費者物価指数は、統計の性質上、物価上昇率を過大に評価するという上方バイアスがあることと、景気が悪化した場合の金融政策の対応力を確保していくためののり代といったものを確保する必要があるということを考慮したものでございます。
 これも委員御存じと思いますけれども、海外の主要な中央銀行でも、同様な考え方から、消費者物価指数で見て二%の上昇を目指して政策運営を行っているということでございます。

前原委員 そういう御答弁でしょう。
二%は中長期の目標にして、一%の物価安定目標に変える、その英断を持たれた方がいい。そうでないと、これからもう一つ副作用のことを申し上げますが、副作用はより大きく なるということであります。
 もう一つの副作用を申し上げましょう。
 先ほど、財務大臣が、これだけ借金があって国債の格付が下がるにもかかわらず、金利が下がっている、不思議なことだと。金利は、下がっているんじゃなくて下げているんですよ、無理やり。日本銀行の金融政策によって無理やり下げているわけでありますが、これはコストがかからないのかということについて少し議論をしたいというふうに思うわけであります。
 日本銀行は、剰余金の九五%を政府に納めることになっていますね。しかし、二〇一四年度は、財務基盤強化のために七五%に下げていて、そして二〇一五年度からは、引当金を積んで、それを差し引いて九五%を国庫納付する、こういうことであります。引当金というのは、大体四千五百億円程度ということですね。
 これは、出口を意識した引当金ということでよろしいですか。

黒田参考人 平成二十七年度の決算はまだ公表前でございますので、具体的な数字についてお答えすることは差し控えたいと思いますけれども、基本的にこれは、御案内のとおり、マイナス金利つき量的・質的金融緩和、こういったものを実施している局面では、長期国債の買い入れに伴う利息収入がふえまして、日銀の収益が通常よりも上振れるわけでございます。他方、将来金利が上昇する局面では、収益が下振れる可能性がございます。
 したがって、今般の、債券取引損失引当金を拡充することによって、収益が上振れる局面でその一部を積み立て、将来、収益が下振れる局面でこれを取り崩すということを可能にしたわけでございます。
 これによって、日本銀行の収益の変動がならされて国庫納付金の額も平準化されるという効果があり、これ自体が何か国民負担をふやすというものではございません。

前原委員 確かに、国債を買われる、今高い値段で買われていますね、金利が低いですから。長期国債でマイナス金利ですから。高い値段で買われているということですし、それに対する利息分が入ってくるということで、当然ですよね。国債の買う量を拡大していっているわけですから、その分、国に入るものは多くなってくるのは当たり前のことです。
 しかし、今お話をされたように、これは未来永続できないわけですから、将来的に必ず、言ってみれば資産を圧縮していくということになります。そうすると、今は買い入れているから国債価格が上昇する、つまり金利が低下をするという局面ですが、逆の状況になると、金利が上昇して、そして国債価格が下落をする。こういうことになります。
 今答弁されたことで一つ申し上げたいのは、今まで国会で、出口局面の収益面の影響というのは、実際どのような手段をとるかということによっても違う、また、その時々の金利情勢によっても大きく変わり得る、したがって、まだ出口戦略あるいは出口の運営の仕方については具体的に議論をするのは時期尚早、こう答えられています。
 しかし、まだ確定をしていないといっても、資産でいうと四千五百億円ぐらいの積み立てをするわけですよ。なぜ四千五百億円程度なのかという額が固まってきた場合には、その根拠が示されなければいけませんよね、何で四千五百億円なんだと。つまりは、利潤と国庫納付金、そして、将来そのバランスシートを下げていく上での金利上昇、そしてそれを払わなきゃいけない、それで引き当てなんだ。それはそのとおりでしょう。
 しかし、その額ということを考えた場合に、どのような出口を考えて政策をとろうとしているのかということは、今まで、考えていないから何も言えませんということをずっと三年以上、黒田総裁は、国会で何を聞かれても鉄仮面のように言われ続けていたわけですよ。しかし、出口は問題なんです、今からお話をするように。
 では黒田総裁、本当にこのオペレーションというものは、利潤と、引き当てによって賄ったものについて相殺をした場合に、必ず国民に対して負担を押しつけることはない、つまりは国会に損失を押しつけることはないということは断言できますか。

黒田参考人 この引当金の仕組み、これは委員も御承知のことと思いますけれども、当分の間、有利子負債見合いで保有する長期国債の利息収入と有利子負債に対する利払い費用の差額の五〇%を目途として積み立てる、利益超過の場合は積み立て、損失超過の場合は取り崩すということでございます。
 こういうものにつきましては、外貨の資産についても同様な仕組みがございますけれども、変動をならすという趣旨ですので、一つの目安として、超過分の五〇%を積み立て、マイナス分の五〇%を取り崩すというのは、一つの典型的なこういうもののあり方だと思っております。
 具体的にどれだけ積み上がっていくのか、あるいは、将来どれだけ足りなくなるのかという具体的な試算が、むしろ、経済状況がどういうふうになっていき、かつ、実際に出口に際してどのような経済金融情勢になっているかということは確定的に予測できませんので、あくまでも予備的というか、一種の保険のような形でこういう仕組みをやっているわけでございます。
 これ自体としては、さっき申し上げたように、通常よりもより多く出てくる利益の一部を積み立て、利益が減っていったときにこれを取り崩すというその仕組みになっております。
 こういった形自体は、具体的に出口のときに、前から申し上げておりますとおり、出口のときの二つの重要な要素というのは、金利水準をどういうふうに調整するかということと、拡大した日本銀行のバランスシートをどのように取り扱うか、この二つが重要なわけですし、米国の場合もその順序とかやり方についていろいろな議論が行われ、実際に、かつて言っていたことと今やっていることと違うわけですけれども、いずれにせよ、そういったことでその二つの取り扱いが重要でありまして、それはやはり、その具体的な出口の局面でどういった手段になるかということは、その時点でないとわからないと思います。
 それから、御指摘のプラス・マイナスの点も、あくまでもそれをならすという意味ではあるんですけれども、全体として一体どういう形になるのかということは、これは、先ほど申し上げたように、具体的な出口の中での経済、金融の動向等にもかかっていますし、また、私どもは、金融政策の出口に差しかかった、あるいは出口を出た後のやり方にもかかっていると思いますので、具体的に申し上げることは難しいという点は変わりございません。

前原委員 この金融政策というのは、よく言われるのは、行きはよいよい帰りは怖い。つまりは、お札を刷って、そして国債を大量に購入して、そしてマネタリーベース、マネーサプライを拡大しているという金融政策が、言ってみれば、攻めのときはいいわけですよ。さまざまなもので好循環を生むという、それが政策ですから、それはそれで、私も繰り返し申し上げたように否定はしませんが、では、それを平準化というか常態化するとき、つまり帰りですね、出口、これについては非常に難しいわけで、それについて本当にうまくいけるのかどうなのかといったところについてはわからないという答弁なんですが、これも繰り返し国会でやっていますけれども、ギャンブルのようなところがあるんです。
 日銀が試算されているのは、長期金利が一%上がれば、保有する国債の時価は二十一兆円目減りする。独立法人経済産業研究所の試算、これは、二〇一六年末に恐らく三百六十五兆円に保有国債は達するであろう。仮に長短金利が二%上昇すれば、平均残存期間八年の日銀保有国債の時価は約一四%低下をして、そして日銀の損失は五十一兆円になる。こういう試算も出ているわけです。
 つまりは、こういうオペレーションというものが最後はうまくいきませんでした、国民に対してツケ回しが来ました、請求書が来ましたということでは、これはまさにギャンブルで、それは黒田総裁が腹を切るだけでは済まない話なんです。
 ですから私は、ここで確約をとるのが我々政治家の責任だと思うのは、私がここで聞きたいのは、必ず国民負担は生じさせないという確約ができてやっているのか、そういう確約を持って本当にやっているのか。そういう確約を持ってやっていなかったら無責任ということになりますよ、今さえよければいいということで。いかがですか。

黒田参考人 日本銀行の使命は、物価の安定と金融システムの安定ということでございます。そうした際に、当然のことながら、日本銀行の財務の健全性というものも十分考慮しつつ、今申し上げた二つの目標に向けて最大限の努力をするということでございます。
 したがって、財務の状況については、今繰り返し申し上げておりますように、十分配慮しつつやっているわけですが、財務の問題、その可能性を言って金融政策をしない、あるいは物価の安定、金融の安定の目標を達成しないということではいけないと思っておりますので、委員御指摘の点は十分理解しつつ、今後とも、物価安定に向けて最大限の努力をしてまいりたいというふうに思っております。

前原委員 つまりは、国民負担は生じ得るということを認められたわけですよ。
 そして、私が先ほどお話をしたように、余りコミットメントを金融緩和でし過ぎると、結果的に副作用とかこういうひずみというものが大きくなるので、私は、もう少しマイルドなものにした方がいい、より持続可能なものにした方がいい、あるいは、その最終段階においてよりマネジメント可能なものにした方がいいということは、申し上げておきたいというふうに思います。
 最後、残りの時間で財務大臣と議論させていただきたいなと思うのでありますが、先ほど、G7の話を少しさせていただきました。
 財政出動の必要性というもの、これはむしろ麻生大臣よりは安倍総理の方がかなりこのことについて熱心だというふうに思うわけでありますけれども、私は、財政出動というのは機動的にやるべきだと思いますし、これを否定するものではありませんが、ただ、やはりカンフル剤的な財政出動というのは、これだけの莫大な財政赤字を考えた場合はできるだけ避けるべきであって、もし財政出動をするのであれば、日本の構造問題を解決するための財政出動にしなきゃいけない。
 そうすると、財政出動自体が構造的な問題に取り組むということになれば、その恒久財源が必要になりますよね。つまりは、単発ではなくて永続させるべきだと思いますけれども、そうすれば、例えばG7とかで議論される財政出動というものをやるのであれば、私は、赤字国債ではなくて恒久的な財源というものをあわせて考えるべきだと思いますが、大臣のお考えはいかがですか。

麻生国務大臣 これは基本的に前原先生、私どももこの三年間の間、財政というもので言わせていただければ、機動的な財政というものを二本目の矢ということで最初から申し上げてきておりますが、結果として今年度の予算につきましても、九十七兆というので戦後一番大きなものになっております。
 傍ら、新規公債の発行は約十兆減らしておりますので、四十三が三十、約十兆減った形になろうと思いますので、そういったものをさらにあと十兆ふやして、二〇二〇年度にはいわゆる基礎的財政収支をチャラにするという収支目標を掲げながらも、傍ら、今よく話題になります子ども・子育て、介護等々の面というのは、社会的な日本の人口構成、高齢化等々、避けがたいものがありますので、こういったものに対応するための財政の出動というのは必然的にある程度避けがたいものだという分を、赤字公債で全てこれまで、例えば、保険の半分を賄いますとか、いろいろなことを私どもとしては借金でやっていた分を、これは借金じゃなくやろう。
 そういう意味で、消費増税等々いろいろなことを我々はやろうと言い出しておりますけれども、ぜひそういった意味で、健全なものにしていく努力は、デフレが続いた中にあってなかなか厳しい状況にあったとは思いますけれども、これは、皆さんそれぞれの努力をされた結果、なかなかそういかなかったということだと思いますけれども、おかげさまで、景気も三年間の間少し上がってきたこともあったために、税収もふえた結果として、今、十兆円のいわゆる新規公債の発行というのも抑えることもできた、傍ら、景気もそこそこというようなところまで、デフレ状況ではなくなってきたということになったんだと思いますので、安易に新規公債をということを、この間、岡田代表はそのようなことをQTのときに言っておられたように記憶しますけれども、私どもは、QTで言われた話が、どういう話でああいうふうになったんだか知りませんけれども、消費増税はするな、その分に関しては赤字公債、新規国債で賄えというような話で安易にいくのでは、私どもはもとのもくあみみたいなことになりかねぬと思っておりますので、私どもとしては、今、ここは大いに頑張らないかぬ大事なときかなと思っております。

前原委員 時間も限られているので、ちょっと簡潔に私から申し上げて最後に御答弁いただきたいと思うんですが、私が申し上げたのは、構造改革にこそ財政出動はすべきだ、それについては安易な赤字国債は発行すべきでない、恒久財源にすべきだということであります。
 そこで、私は二つ申し上げたいのは、社会保障と税の一体改革というスキームは非常によかったと思うんです。つまりは、税を上げて何に使うかということを、言ってみれば、バランスシートで国民に見せるという意味においては大変よかったと思うんですが、私も政調会長をやらせていただいていて、今、一つ反省していることがあるんです。
 なぜかというと、五%のうち、機能充実が一%しかなくて、四%は社会保障には回っているけれども、しかしそれは、赤字財源で賄われていた社会保障の財源の安定化ということで使われて、つまり借金の穴埋めに使われていたということで、国民からすると、五%上がったのにこれだけかと。そうすると、上がることについて非常に、言ってみれば嫌な感じがするわけです。
 例えば、これが二%とか半分ぐらいが機能充実で賄っていたら、五%上げたらこれだけの子ども・子育て、社会保障の充実ができるのかというようなことを見せてもらえれば、喜んでとまではいかないけれども、国民も税を上げるということについての理解は私は高まると思うんです。
 これからやはりしっかりとこういうことをやっていくためには、例えば八から一〇に上げるに当たって、我々の反省も含めてですけれども、例えば、一%だけを借金の返済に回して、一%を機能充実にされたらどうですか。そして、二%上げる部分の一%部分についてはこれだけの機能充実ができますというところを見せて、増税に対する理解を得る。そのかわり、二〇二〇年のプライマリーバランス黒字化は無理ですよ。
 でも、これはなかなか無理ですって。三パー、二パー、それでやったって六・五兆円足りないんですから。
 それで考えると、本当にできる財政健全化目標をもう一遍立て直して、そして、増税をするときに国民に理解を求めるようなものに変えた方がいいと思いますが、お答え、いかがですか。

麻生国務大臣 極めてまともな話ですよ。こういう話ができると非常にいいんだと思いますけれども、何となく、テレビやらマイクが入ると興奮ぎみで皆さんしゃべられる中で、我々はやはりすれているんですかね。何か長いこといると、普通の話ができるようになったのは、我々、この社会に長くいたおかげなんだと思いますけれども。
 社会保障、いわゆる受益と負担の話のバランスの話をしておられるんだと思いますので、やはり私どもとして反省すべきとするのであるならば、やはり、上げた分の三%の分が、個人とか社会とかそういったようなところの子育てとか介護とかいろいろなものに行く比率がもっと高くなって、これまでのいわゆる国民皆保険というものをやっている部分は、保険じゃなくて実はあれは税金が入っておりますから、その部分を減らすという本来の目的、流れとしては正しいけれども、もう少しゆっくりやった方がいいんじゃないか、簡単に言えばそういうことを言っておられるんだと思いますので、私どもとしては、この点は今後の参考としてやらせていただかないかぬところだと、私どもそう思います。

前原委員 終わります。

(議事速記録より)
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