前原誠司(衆議院議員)

国会議事録

国会議事録

第190回国会 衆議院財務金融委員会2016/02/26

前原委員 おはようございます。民主党の前原でございます。
 まず、財務大臣に租特、政策減税についてお話を伺いたいというふうに思います。 お配りをしている資料の六をごらんいただきたいと思います(配布資料)。
 民主党政権のときに、租特透明化法というものをつくりまして、そして、その結果明らかになってきたものであります。二十四年度が国税で一兆円、二十五年度が一兆四千八百億円、そして二十六年度が二兆円、こういうことで、政策減税、租税特別措置減収額というのはふえていっているわけであります。
 私どもは租特そのものが悪いということを申し上げるつもりはありませんが、その使い方について、やはりもう少し精査した方がいいのではないかと思っております。
 その精査する中身について、下の表を見ていただきますと、法人名を具体的に、これは法人コードでしかわかりませんが、大体これはわかりますので、一応、法人名(推定)、プロ野球選手の年俸みたいにしておきますけれども、こういう大企業が、言ってみれば、トヨタ自動車、一千二百億円のいわゆる減収になっている。NTTドコモが二百七十七億円、デンソーが二百二十六億円、日産自動車が二百十四億円、ホンダが二百十億円、JR東海が百九十八億円、キヤノンが百五十八億円。
 言ってみれば、これは補助金というか、国からこういう租税特別措置ということで減税をしてもらっているわけでありますが、では、この会社が一体どれだけ利益を出しているのかということを申し上げれば、一々申し上げませんが、トヨタ自動車でいうと二兆円以上の利益を上げているわけですね。そして、ほかの読み上げた企業については数千億円の利益を出していて、しかも、利益剰余金、いわゆる内部留保について言うと、トヨタ自動車なんていうのは十五兆円を超えているわけですね。
 こういった会社に対して減税が行われるというのは、大臣、これは国民感情からいって納得できますか。

 

麻生国務大臣 法人税の税制政策の恩恵が大企業に偏っているとの御指摘だと思いますが、確かに、最大の政策税制の一つであります研究開発税制というものを見ますと、いわゆる大企業の利用が多くなっておるということなんだと思いますが、それ以外の政策税制は、全体として見ましても、大企業に偏っているというわけではないのではないか。例えば、制度の利用者を見ましても、中小企業が約八千三百件とか、大企業の方が四千件とか、そういった形になっているんだと思っております。
 政策税制はいわゆる政策を達成するための手段でありまして、実際に効果が上がっているということが最も重要なんです。所得拡大促進税制というものも、これは一つのきっかけだったんだと思いますが、これをやり始めるときにはいろいろ御意見があったんですが、やらせていただいた結果、二年連続で大幅な賃上げというのが実現しておりますので、経済の好循環につながったということは確かだと思っております。
 他方で、今おっしゃるように、内部留保というものが、最初が二十四兆、翌年が二十五兆、去年のはまだ出ていませんので二十五兆、合計約四十九兆五千億だったかな、約五十兆出たんだと思っております。それまで手元資金が積み上がっておるわけです、内部留保として。そういったものがいわゆる賃金に回るはずなのではないかといえば、最初の年度は、実は、賃金はマイナス三兆減っております。翌年、プラスの一兆ふえておりますの で、トータルで一兆しかふえておらぬ。五十兆ふえて、賃金は一兆しかふえておらぬ。極端な言い方をすれば、そういうことになろうと思います。
 そういった意味では、やはり経済界というか企業側も、いわゆるデフレじゃないんだ、インフレなんだから、マインドを変えてもらって、少なくとも、こういった設備投資の拡大とか、賃金とか、配当とか、そういったようなものに切りかえていくというのは、これは物すごく重要なことなんだと思います。
 政府としても、こういったものに関しまして、事業環境は我々としては整備していって、これまで三年やってきましたので、そういった意味では、きちんと今後やってもらいますよということを何回も申し上げ、おかげさまで、ことしの一月四日の新年の賀詞交換会というか、ああいう会では、同友会、経団連、商工会議所、いずれもそのトップの方々は、これまで政府に、金融、財政、いろいろやってもらったが、これから民間の番なんだ、我々がやるべきなんだということを、三人とも冒頭で発言しておられ、地方を回ってもおられますので、そういった点に関しましては今後期待をいたしておるところであります。

前原委員 答弁は短くお願いいたします。
 私は、冒頭に申し上げたように、租特そのものを否定しているわけではないんです。ただ、それで恩恵を受ける企業については、やはり区別すべきではないかということを申し上げているわけです。
 今大臣が御答弁をされました内部留保の問題、恐らく、積み上がったもの全体でいうと、三百五十四兆円ぐらいだと思いますね。そして、それが賃金に回ればいいですよ、設備投資に回ればいいけれども、なかなか回っていない状況があるわけですね。
 私が申し上げているのは、やはり体力、余力のあるところに政策減税が行われるというよりは、むしろその財源を、例えば、より中小零細企業に回すとか、今の好循環をさらにアクセルを吹かせるために回すとか、区別をつけた方がいいんじゃないかということを申し上げているわけです。
 したがって、内部留保とかあるいは利益とか、こういうものをしっかりと見きわめた上で、そして、まあ立場は違いますけれども、軽減税率と一緒なんですよ、私に言わせると。つまり、大企業、利益を出して内部留保をたくさんためているところにやったら、そのお金がもったいないということなんです。 軽減税率の最大の問題点というのは、財源が決まっていないということもありますけれども、所得のより高い人ほど高額のものを買うんですね。お米にしたって、お肉にしたって、高いものを買うんですよ。その場合に、言ってみれば、さらに軽減されるということについて、社会保障のお金に大きな穴があくということで我々は問題視をしているわけです。
 この租特も同じで、政策減税そのものを否定しているわけじゃないんです。先ほど御答弁されたとおり、必要なものもあるでしょう。しかし、一定の利益とか、あるいは内部留保とかいうことを考えて、そこは区別をする、もう少し精緻な形にしたらどうかということを申し上げているわけです。

麻生国務大臣 これは前原先生、この政策減税というものにつきましては、いわゆる特定の政策目標を実現するために有効な政策手段になり得るものだ、私もその点に関しては全く意見は同じなんですけれども、他方では、御指摘のありましたとおり、必要性とか、その政策の効果というものをよく見きわめた上で適切に見直しをやっていってもらわないかぬのではないかということを言っておられるんだと思うんですが、最近でも、二十七年、二十八年度の税制改正において政策税制の見直しというものに取り組んできているんですが、今後とも、毎年度、いわゆる期限が到来する、時限立法になっていますので、期限が到来するものについては、これはゼロベースで見直せということをやろうといたしております。
 ただし、今言われたように、内部留保が多額な企業を対象としないといったアイデアとか、また、そうした見直しを受けて仮にやったとして、投資拡大や賃上げなどにちゃんと前向きに取り組むかということにつきましては、なかなか難しいので、それは企業の判断によりますので、内部留保が多額かどうかという点についても、どこを基準とするかというようなことで、ここまでが多額、ここから先は多額じゃないという線引きはなかなか難しいなというので、ちょっと慎重に考えないかぬとは思っているんですが、少々、内部留保に多額に偏り過ぎたというこの数年間の事実ははっきりしていると思います。

前原委員 いや、そこで終わられたら困るんです。はっきりしているのはわかっているんですよ。だからどうするかということを伺っているわけです。つまり、期限が来たものの見直しではなくて、内部留保とか、あるいは利益がずっと出ている、さっきのトヨタなんてすごい内部留保ですよ。
 そこで、私は、安倍政権のいわゆるトリクルダウンという考え方については全てを否定しませんけれども、いつからこの国は社会主義になったのかという気がするわけですよ。
 例えば、賃金を上げろ。最低賃金まではいいですよ、それは。携帯電話の値段まで下げろ。こういうことは、本来、資本主義国家においては企業がみずからの判断で決めるべきものなんですね。そして、これだけ労働生産人口がタイトな時期においては、どうやったら優秀な人材を囲い込めるかということも含めて、本来であれば、労使の中で話し合いをして賃金を決めるということで、政府が、共産主義国家、社会主義国家じゃないのに、こういう仕組みをつくったから、あんたのところは賃金を上げろというのは本来はおかしいと私は思うんですよ。
 さらに加えて、もう一度申し上げますと、それは線引きは難しいですよ。優秀な財務省の方々がいっぱいおられるわけだから、それは考えさせたらいいじゃないか。大臣が指示したら考えますよ。これだけ内部留保を抱えているところにさらに政策減税というものが行われるということについては、もったいないんじゃないですかということを申し上げているわけですよ。
 私は、別にトヨタ自動車を狙い撃ちしているわけじゃないですよ。千二百億といったら相当な額ですよ、千二百億円。そして、この会社は、二兆一千億、一年で利益を出しているんですよ。内部留保は十五兆六千億ぐらいあるんですよ。そこに千二百億円の言ってみれば租税特別措置。自動車産業を足すと、もっと、数千億になるわけですよ。そういうところに租特、政策減税措置が行われるというのはおかしいでしょうということを申し上げて、それを見直してくださいと申し上げているわけです。

麻生国務大臣 今私も同じことを申し上げているつもりなんですが、基本的に、期限が到来するものを中心にゼロベースと申し上げているのは、中心というのは、何も期限が到来するまで待つというつもりもありませんし、今、内部留保金課税をしろ、内部留保金には課税せいと。二重課税のきわみとは思わぬでもありません。そういった激しい意見もあることは確かです、間違いなく。
 そういったようなことを考えていくと、いわゆる、先ほど言われましたように、この国はいつから社会主義になったんだと。私は、昔から、世界で最も成功した社会主義は日本じゃないかと思わないでもないんですけれども。
 いずれにしても、今言われましたように、やはり、給料の値上げを連合が自民党に頼んで、政治圧力で企業にするなんというのはどう考えたって筋としてはおかしいですよということを何回も申し上げてきましたけれども、今回も給料の話から何からというので、社会主義じゃないですかといろいろなところで申し上げてきたんですが、今は非常事態なんだと。始まって以来の、始まって以来というか、戦後以来のデフレ状況になっておりますので、そういった意味では、デフレ対策をやった経験者はゼロですから、したがって、日銀も間違えた、政府も間違えた、みんな間違えたというのが失われた二十年の一番のもとだと思っています。
 いずれにしても、今言われましたものを含めまして、企業家としての矜持とか企業家としての精神とかいったものも含めて、いろいろなものが、私どもとしては、ルールだけでやると違反じゃないじゃないかと言うけれども、いや、違反だけの問題じゃないのであってというところまでいきますので、ちょっとここのところは、政治でやる、法律でやるというところがなかなかひっかかるところなんですけれども、いずれにしても、この話につきましては、我々としては検討せねばならぬと思っております。

前原委員 ぜひ検討していただきたいというふうに思います。
 別に連合さんは自民党だけに頼んでいるのではなくて、政治にいろいろな団体が要望するのは当然の権利ですから。権利の中で、与党、自民党や公明党に政策要望をされている、我々にも政策要望をされている、それを政治が大局に立って判断するというのは当たり前のことだ、こういうことは申し上げておきたいと思います。
 さて、きょうから財務大臣それから黒田日本銀行総裁は上海でのG20に行かれるわけであります。
 きょうは若干株価も上がって、円も下がっていまして、きょうはきょうでいいわけでありますが、非常に年初来から市場が荒れている、ボラティリティーが高い、こういう状況であります。これは、言うまでもなく中国を初めとする新興国経済の減速、それから原油価格の低迷、これは相乗的にかかわっているものもあると思いますけれども、それから欧州の銀行セクターの問題とか、あるいは、一番安全だ、安心だ、堅固だと思っていたアメリカ経済というのが若干黄色信号に見える状況になってきた、さまざまな要因があるというふうに思います。
 さて、中国の経済とそして原油の問題についてどういう議論をされるのかということに絞って、少しお二人にお話を伺いたいというふうに思うわけであります。
 まず、皆さん方には釈迦に説法でありますが、若干バックグラウンドで話をさせていただきたいと思います。
 資料の八(配布資料)をごらんいただきたいと思いますが、これは中国の外貨準備の推移でございまして、最大四兆ドルぐらいあったわけでありますけれども、今、毎月毎月一千億ドルずつ下がっていっているという状況です。ピークから比べると二割下がったということでありまして、まだまだ潤沢にあるんだというのはそのとおりだと思いますが、ただ、このペースでいくと、外貨準備は三十カ月で枯渇しますから。こういうような状況にまずあるということが一つ。
 それから、九(配布資料)をごらんいただきたいんですが、これは、上の線が預金取扱銀行資産なんですね。それと、下のぎざぎざのものがGDPでありますけれども、これだけ乖離してきているということは、これはバブルの危険性が極めて高まっているということですね。
 それから、その下、十(配布資料)です。これは二〇〇五年を起点としておりますのでこういう表になっているわけでありますけれども、実質実効為替レートというものを見ると、中国の元はやはり高いんですね。ドルとずっとペッグで来まして、それを引き下げるということを行ったわけでありますけれども、しかし、相対的に高い、こういうことなんだろうというふうに思います。
 さてそこで、お二人にお伺いをしたいわけでありますけれども、まず中国の経済について、何がG20で発出されるべきなのか。議長国ですよね。議長国のメンツというのはありますけれども、どういったことが発出をされるべきなのか。
 こういう非常に難しい状況です。後の議論の中でまた申し上げますけれども、トレードオフの関係があるわけですね。つまりは、元は相対的に高い、しかし、元が高いけれども、下がるということになると資本流出になるし失業はふえるしということで、むしろ元を買い戻しているわけですね。元を買い戻しているということは、これは金融政策をみずから封印しているのと一緒なんです。なぜなら、通貨の引き下げをしないようにして、しかも、市場から元を言ってみれば吸収しているわけですから、緩和効果の逆をやっているわけですね、経済が低迷しているのに。
 つまりは、資本流出をとめるためにこういうことをやっていて、そして元の、相対的に高いんだけれども、フリーフォール、暴落を防ぐためにいろいろなことをやらざるを得ない、そして、供給過剰体制になる、こういう非常に難しい状況の中で、しかし、これが世界全体のマーケットを言ってみれば不安定にさせているわけですね。
 どうしたらいいか、どういうメッセージをG20で発出したらいいか。まず、財務大臣に伺います。

麻生国務大臣 これは、前原先生、昨年のG20は、十月のときにも、上海のマーケットの暴落の底はと名指しで、ほかの方と違って日本の財務大臣というのは余り品のいい方じゃないものですから、名指しでおかしいじゃないかと、名指しで騒ぎになったんです。
 少なくとも、中国の過剰設備、鉄鉱石なんて実需の何倍も生産能力があるわけですから、これはどう考えても閉鎖してください、簡単に言えば。それから、過剰信用、今この図に出ております、これは過剰信用のきわみなんですから、こういったようなものもちゃんと落としていただきますというような話を名指しでしたんです。
 ほかの国がどう対応するかなと思って見ていましたけれども、私が言った後は皆、遠回しな名前でなくてチャイナときちんと言うようになりましたから、ちょっとは効果があったんだと思っています。
 その後、中国側が二人、中国の代表も、我々がこれまで金融政策で間違いを犯したかもしれないと。また、財務大臣の方も同様に、これから五年間、中国というものは、経済構造改革というもので、ニューノーマルとかいろいろな表現をしているけれども、こういったようなことを引かれて、時間をかけてやらせてもらわなきゃしようがないんだというような話をしたんですよ。少なくとも、中国の高官がG20という公式、しかも平場の場で自国の政策の間違いを認めたというのは過去一回もありませんから、これは結構騒ぎになったんです。
 少なくとも、そういった状態を今後ともやり続けてもらわないかぬわけです、ここは。やはり、ここが急激にということは、さっき言われましたように、ハードランディングとかいろいろな表現がありますけれども、それは他国に与える影響が大きいので、落ち目になっていくというのはある程度やむを得ぬとは思っても、なだらかにやっていくようなことを考えてもらわないとということに関して、いわゆる資本流出が急激に進むんだったら、それをとめろという手口は、少なくともあの国にはやった経験がありませんから、我々はもうその種の話は何回もやったことがあるので、そういった経験者に聞けといった話もいろいろ、その人たちに直接、個別につき合いがありますので、そういった話もしたりいたしておりますので、いろいろな話を今後していかねばならぬ、私どもとしてはそう思っております。

黒田参考人 御案内のとおり、中国経済は、今、大きな構造転換を迎えております。IMFのラガルド専務理事の言い方をかりますと、三つの構造転換、輸出から内需へ、製造業から非製造業中心へ、そして投資から消費へと。これは、どんな経済にとっても非常に大きな構造転換ですけれども、特に中国経済については非常に大きな構造転換である。それを政策的にできるだけスムースに、しかも必要な構造改革をやっていく、そういった姿勢自体は、私ども、バイでも、あるいはマルチの会議等でも感じておりまして、基本的な構造改革というのを一方で進めながら、他方で緩やかな減速というのはもちろん受け入れているわけですけれども、景気が急激に下落するとかハードランディングになるということは適切な財政金融政策で避けるということでこれまでやってきておりまして、全体として安定した成長は続けておりますし、ハードランディングの可能性は少ないと私どもも感じております。
 ただ、委員御指摘の、いわゆる融資総量が非常に大きく伸びたといったこととか、あるいは為替政策と金融政策との関係とか、さまざまな難しい問題というものに直面していることも事実であります。そういった面で、当然のことながら、さまざまな場で意見交換をし、適切な政策対応をとっていただけることを期待しております。
 ただ、委員がまさに言われたように、この方程式を解くというのはそう簡単なことではない。ただ、私は、中国政府の政策能力というものは十分あると思っておりますので、適切に対応していただけるというふうに思っております。

前原委員 黒田総裁がダボス会議に行かれたときに、グローバル・エコノミック・アウトルックというセッションに出られましたね。そのときに、先ほどお名前の出たラガルド専務理事、あるいは他国の財務大臣等々でパネル参加をされたと思うんですが、そのときに、国際金融のトリレンマの話をされていますね。独立した金融政策、為替相場の安定、自由な資本移動、この三つを同時に満たすことはできない、これはまさに公理ですよね、トリレンマという公理であります。
 これは原則論として言ったんだということはおっしゃってはいるんですけれども、では具体的に、なかなか私もこれは、答えは、とにかく徐々にうまくやるしかない、相反することだけれども徐々にやるしかない、こういうことなんだろうと思うんですけれども、それをやろうと思ったときに、やはり資本規制という問題は、先ほど財務大臣は資本流出をとめなきゃいけないという言い方をされましたけれども、では、その方策として資本規 制というのは必要なのかどうなのかということは、私は議論になると思うんですね。
 いかがですか。まず黒田総裁。

黒田参考人 確かに、国際金融におけるトリレンマというのは有名な議論でありまして、これ自体は理論的に正しいと思っております。
 そうした上で、現在の中国の経済状況、金融システムの中でどういった組み合わせが最も適切かということになってくると思います。
 その面では、既に中国政府あるいは人民銀行等がはっきりと示しておりますけれども、やはり、人民元が大きく下落するということは避けなければならないし、それは十分避けられると言っておられますと同時に、国際取引ですので、経常取引に化体した資本逃避とか、これは違法な取引なわけですけれども、そういったものについてはきちっと取り締まると言っておられますし、現に取り締まられているようであります。
 したがいまして、一種のパニック的な資本逃避というのは、そういった適切な規制とそして当局の為替の安定に向けた断固たる対応ということで私は十分防げるものというふうに思っております。現に、このところ、人民元は比較的安定的に推移しております。
 資本規制一般論ということになりますと、これはなかなかいろいろなところで議論があるところでありまして、御承知のように、IMFは以前は資本規制というものに非常にネガティブでしたけれども、このところ、新興国、途上国については、場合によっては、資本規制とは言っておりませんが、キャピタルフローマネジメントと言っておりまして、資本フローの管理という形で認められる場合があり得るという姿勢は示しておりますが、同時に、あくまでも適切な構造改革と適切な財政金融政策、マクロ政策のもとでそういったものが一時的に、例外的に発動されても適切な場合があるということを言っておられます。
 たしかダボス会議で委員御指摘のグローバル・エコノミック・アウトルックのセッションで中国の話が出ましたときにも、ラガルド専務理事は資本規制そのものについては具体的なことはおっしゃいませんでしたけれども、例えばマクロプルデンシャルな規制といったような形は触れておられましたので、そういうことは十分あり得ると思いますが、今の時点で、私の見るところ、中国政府は今言ったトリレンマをうまくマネージする方向で人民元の安定を図りつつ、リーズ・アンド・ラグズとか経常取引に化体した実際は資本逃避といったものを取り締まりながら、委員御指摘のように緩やかに調整していくということをやっておられますし、私はそういうことができる政策能力は中国は十分持っておるというふうに思っております。

前原委員 違法なものはもちろんよくありませんけれども、資本逃避というものをどうやって防いでいくのかということについては、大変重要な議論として考えなくてはいけないと思います。
 それに関連すると、他国の金融政策というものがまた関連してきますね、総裁。つまりは、資本逃避するかどうなのか、資本流入するかどうかというのは、これだけグローバルな環境になれば、他国の金融政策に大きくかかわるわけですね。
 先般、おとつい、ここで議論をさせていただいたときに、今アメリカの大統領選挙をやっていますけれども、共和党の候補であるトランプ氏が日本を名指しで批判した、この中身については言いがかりなところがあるということは申し上げましたけれども、今度は民主党の大統領候補のクリントン氏も通貨安政策を批判している、こういうことであります。
 機能、アメリカで関税関連法というのが成立をいたしました。これは、貿易相手国の為替操作を阻止する措置、こういうものがかかわっているわけでありますけれども、これからアメリカの経済が、黄色信号なのかどうなのかわかりませんけれども、こういう状況になるにつれて、他国へのいわゆる金融緩和政策の目つきが物すごく厳しくなってくるというふうに思います。
 そことあわせて、私は、アメリカの利上げというものについても、これは利上げそのものを見直すとか、あるいはやるにしても本当にゆっくり徐々にするとか、世界全体の環境を見てやってもらわないと極めて大きな影響が及ぶ、こういうふうに思うわけであります。
 まず、財務大臣に伺いますけれども、アメリカがかなり目つきが厳しくなっている、日本の金融政策に対して。先ほど申し上げたいわゆる関税関連法もそうですし、こういったことについて、金融政策については、相当、これから恐らく、G20においても、通貨安競争はやめようねという話はあると思うんですね。それについて同意されるかということと、それからアメリカの利上げですね。これについては、先ほど、中国に一番初めに自分が物を言って、それで雰囲気をつくられたということで、麻生財務大臣の存在感がある、ぜひ日本の代表としてそうあっていただきたいと思いますし、利上げについてもやはり逆に物を言うというところは必要だと私は思うんですが、いかがですか。

麻生国務大臣 これは、前原先生、他国の金融政策に我々がコメントするというのはなかなか難しく、控えなきゃいかぬところなんですが。
 アメリカの場合は影響が、金利が上がりますと、他国に入っておりますドルがアメリカに逆流する、いわゆるキャピタルフライトとかいろいろな特殊用語がありますけれども、そういったことが起きますものですから、こういう発展途上国というか新興国における影響は極めてでかいということになりますので、今言われましたように、そういった点は緩やかにやってもらわぬと、我々は近くにおりますものですから、隣国の影響によってこっちも被害が出てくるということだと思いますので、これはちょっと緩やかにという方向に、今間違いなく市場の声としてそうなってきておるのを受けて、あのイエレンという人は対応を今のところしておられるように見受けますけれども。
 マイナス金利つき量的・質的金融緩和ということ等々、我々の方は、黒田総裁の方から説明がされることになるんだと思いますけれども、いずれにしても、今G7とかG20 において、自国通貨の切り下げ競争をやめようというのは、これは二〇〇八年のリーマン・ブラザーズのときの、最初に我々日本が十兆円をIMFに貸し付けたときの条件に、あのとき、平価の切り下げ競争はしない、関税引き上げ競争はしない、ブロック経済はつくらない、この三つが条件で俺たちは十兆円という話をしたんですけれども、間違いなくそれをきちっと守ったのは日本だけだったかなと思わないでもありませんけれども。
 他国は、切り下げ競争はしなかったんだけれども、平価を大量に出したものですから、結果として下がったというので、裏口入学みたいなことじゃないかといって、僕は何回も言ったことがあるんですけれども。
 結果としてはそういうことになったのであって今さら、我々がやったからといって、今度は日本だけが通貨安競争なんて言われる覚えはない、先にやったのはそっちがやったんじゃないかと言われて、それ以後、その話は全く出ませんし。
 そういった意味では、この種の話は常にみんなで協調しないとできないところだと思いますので、おっしゃるように、この点は、アメリカがいろいろ言ってくるのはわかりますし、選挙の期間でもありますから、いろいろ言うんだとは思いますけれども、現実問題、今やりますのはイエレンであり、ジェイコブ・ルーという人がやっていきますので、そういった人たちと十分に話をしていかねばならぬと思っております。

前原委員 黒田総裁、一つポイントだけ伺いますけれども、関税関連法あるいは大統領選挙での候補者の発言を含めて、日本の金融政策を縛られるものなのかどうなのか。それは、自分たちは違うと言いますよね、通貨を切り下げる、為替政策をダイレクトに意図したものではないと言いますけれども、向こうは違うふうに見ている。その中にあって、しかし、これは国際協調ですから、今財務大臣おっしゃったように、アメリカのこういう法律あるいは大統領候補の発言というものは、今後の金融政策に日本は影響を与えられるのかどうなのか。その点、いかがですか。

黒田参考人 二つ申し上げたいと思いますが、一つは、G20で、従来から通貨の競争的な切り下げを回避し、あらゆる形態の保護主義に対抗するという考え方がずっと共有されておりまして、ほとんど毎回のG20のコミュニケにそういう点が盛り込まれております。ですから、この点は、G7はもちろん、もとより、ずっと前からそういう考え方でございますし、G20もそういうことでやっておるということであります。
 金融政策につきましては、常に物価の安定という金融政策のマンデートに従って運営されるべきものであるということも合意事項になっておりまして、この点は、我が国の金融政策も全くそのとおりでありまして、為替レートをターゲットにしてやっておりませんので、したがいまして、御指摘のようなものが我が国の金融政策について制約を与えることになるとは考えておりません。
 いずれにいたしましても、引き続き、二%の物価安定の目標の早期達成に向けて、現在のマイナス金利つき量的・質的金融緩和を推進してまいりたいというふうに思っております。

前原委員 それでは、残りの時間で、今のマイナスつき量的・質的緩和についてお話を伺いたいというふうに思います。
 この間も、おとついも若干言及したんですけれども、突然でしたよね、このマイナス金利つき質的・量的緩和ですか。したがって、金融機関、銀行のシステム、それから法令、顧客との法令、これが間に合わなかった。今も間に合っていない面がありますけれども、そういうところは配慮されなかったんですか。

黒田参考人 そういった点につきましてはもちろん配慮して、いろいろな考えを持っておりました。
 そうした中で、御指摘のように、特にコンピューターシステムの対応が直ちにできないということもありまして、当初は短期金融市場、コール市場などにおいて対応できないという金融機関が多かったわけですけれども、最近は対応する金融機関が出てきまして、マイナス金利が成立するということになっております。
 法務面では、最近、金融法務委員会でもかなり明確な方向を出されておりまして、これは法律家、弁護士の方々、専門の方々の御意見でございまして、これは当然、私どもも考えておりました線でございますけれども、金融機関もこれに沿って法務面の対応は十分できるということであろうと思っております。

前原委員 一月二十九日に発表されて、二月十六日から施行ですよね。できていないんですよ、金融機関。多分、総裁もいろいろな方とお話しされていますけれども、まだ対応できていないですよ。
 なぜもうちょっと準備期間を置かなかったんですか。それはやはり、私は、日銀としての実務的なミスだと思いますよ。しっかりとやはり準備期間をとって、銀行にその準備をさせるということは大事でしょう。それは自分たちの瑕疵だとお認めになりませんか。

黒田参考人 このマイナス金利つき量的・質的金融緩和の導入を決定したのは一月二十九日でございましたけれども、決定した以上、これを可及的速やかに実施することによって政策効果の浸透を図ることが適当というふうに判断いたしました。
 コンピューターシステムにつきましては、直ちに対応することが困難な場合があるということはよく承知しておりましたが、対応の仕方によっては何カ月もかかるという話もありまして、一方で、システム全体を変えるのではなく、パソコン等を使って具体的な短期資金取引等についてマイナス金利に対応できるようにするということは可能であるということであり、現に外銀等を中心に既にそういう対応をとって、マイナス金利が市場で成立をしております。
 したがいまして、コンピューターシステムについては、幾つかの困難に直面する金融機関があるということは承知しておりましたけれども、そうかといって、何カ月もかかりますというのを、政策を発表して何カ月もやらないでいるということはやはり適切でないと思いまして、先ほど申し上げたように、政策効果の浸透を図るという観点から、二月の中旬に、ちょうど積み期の関係から最も適切な時期にこの適用を始めたということでございます。

前原委員 この政策によって、金融株は大幅に下落をする、そして、実務的にも、コンピューターのシステムのみならず、先ほどの法務上も大きな問題が起きるということで、別に数カ月とは金融機関も言っていませんよ、もう少ししっかりと準備をする期間をということでありまして、そこは配慮しないと、ある金融機関の方は、株主代表訴訟を日銀に起こそうかなんということをおっしゃった方もおられるぐらいですから、それぐらいやはり今の日銀の政策については怒っているということであります。
 一番困っているのは、私は、ゆうちょとそして地銀が大きいということを申し上げましたけれども、このマイナス金利が入ることによって、今、地銀がメガバンクにお金を預けているということは御存じですか。

黒田参考人 マイナス金利導入後、市場の金利が低下しております。
 そうした中で、御案内のとおり、三層構造をとっておりますので、自分の準備預金にマイナス金利が適用されるところと、そうでなくて、ゼロとかあるいはプラス〇・一%の枠のあるところがありますので、そういうところでの取引ということは十分あり得ると思いますし、欧州の例を見ましても、欧州も三層構造をとっている国が多いんです、三層というか、階層構造をとっている国が多いんですけれども、そこにおいては、金融機関同士でそういった取引が行われております。

前原委員 いや、そういうことじゃないんですよ。運用に困って、メガバンクに預けているんですよ。そういうものがふえているんですよ。調べられたらどうですか。
 あるメガには、地銀から数兆円のお金が、あれ以降、集まっていますよ。だから、こういうポートフォリオリバランス、これは政策目的と違うことになっているわけじゃないですか。
 だから、こういうことと違うことになっているということについては御存じないんですか、そういう動きが起きているということは。
 ちょっと時間がないので、もう一つだけ質問させていただきます。あわせてお答えください。
 やはり、私は、このマイナス金利つき量的・質的緩和というものが導入されたときに一つ心配だったのは、それは、金利を下げるということになるわけですが、もうおなかいっぱいで食べることができないのに、また食えと言っているようなものですよね。先ほどの話では、内部留保は、ため込んでいる企業はいっぱいあるわけですから。それにもかかわらず、まだ借りろみたいな、そういう政策ですよ。
 七番を見てください(配布資料)。
 マイナス金利を導入しているスイスとかデンマークでは、不動産が値上がりしているんですね。そして、バブルが崩壊してからもう二十年以上たちますけれども、不動産融資は、二十六年ぶりの最高値ですね。つまりは、バブル崩壊の前を超えたんですよ、バブルのときの不動産融資。
 もちろん、あのときになかったREITという仕組みというものがあります。これは大事な仕組みです。私も、これは国交大臣のときに、建てかえなんかにREITが使えるようにということで法改正したぐらいですから、このREITというのは極めて大事だということは認識をしていますけれども、これは、実際の、先ほど財務大臣がおっしゃったようなところでの設備投資じゃなくて、マイナス金利というものがこの不動産バブルというものを起こす危険性というのは十二分にあるんじゃないですか、このスウェーデンとかデンマークの例を見ても。
 地銀がメガに預けているということを知っておられるかどうか、一言で結構です。あと、不動産融資がバブルのころを超えたということについて危機感を持っておられるかどうか、それをお伺いします。

黒田参考人 マイナス金利導入後、まだ時間が十分たっておりませんので、統計的な分析が十分できているわけではございませんが、先ほど申し上げたように、そういった取引がマイナス金利の階層構造のもとであるということは、十分予期されるところであります。
 それから、不動産価格につきましては、私ども十分モニターしておりまして、これまでのところ、不動産関連で行き過ぎがあって、過熱があり、バブルで、その崩壊が金融システムに影響を与えるといったような状況にはなっていないというふうに思っております。
 ただ、引き続き、金融システムの健全性、安定性につきましては十分注視してまいりますし、半年ごとの金融システムレポートで詳細に報告をしてまいりたいと思っております。

前原委員 これで終わりますけれども、やはり、今までの量的そして質的緩和を行うことによって、過去、バブルが起きているわけですね。それが崩壊して、それが今のデフレにもつながっているわけですから、日銀のこの政策というものがもう一度同じようなバブルを生んではいけないということで、しっかりとその辺は注視をしながらやってもらわなきゃ困るということを申し上げて、私の質問を終わります。

(議事速記録より)
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