前原誠司(衆議院議員)

日々是好日

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毎日新聞・政治プレミア・前原誠司の直球曲球⑦「北方領土交渉 2島でも簡単ではない」2018/12/27

毎日新聞「政治プレミア・前原誠司の直球曲球」20181226日)より

 

「北方領土交渉 2島でも簡単ではない」

 

安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と二十数回の会談を重ねて人間関係を築き、北方領土問題を解決しようとしている意欲は評価したい。

1956年の日ソ共同宣言以前は、当時政権を担っていた自民党内でも返還が可能なのは歯舞(はぼまい)群島、色丹(しこたん)島の2島までだという見方が中心的だった。

ところが日ソの接近を懸念した米国のダレス国務長官が介入した結果、2島は先行返還、残る国後(くなしり)択捉(えとろふ)の2島は継続協議という日ソ共同宣言になった。

ソ連が崩壊過程に入ると、日本側に有利な状況が生まれた。91年に海部俊樹首相とソ連のゴルバチョフ大統領による日ソ共同声明では正式文書で初めて「四島」が確認された。93年には「四島の帰属問題を解決する」とした細川護熙首相とロシアのエリツィン大統領による東京宣言につながる。

首脳同士の話し合いの本当の内容はわからない。それを前提に言えば、安倍首相が「日ソ共同宣言を基礎とする」と表明したということは、プーチン氏との話し合いのなかで、四島返還は難しいという認識に達したということだろう。


■プーチン氏のメリットは何か

 

外交交渉では相手の立場に立って状況を考えてみることも必要だ。

プーチン氏の立場になってみるとメリットは何か。一つは経済協力だ。ただし、日本は領土問題が解決しなければ経済協力はしないという立場ではない。

私は、プーチン氏が平和条約交渉の際に、クリミアとウクライナの帰属問題を持ち出す可能性があると考えている。ロシアはこの問題で国際社会に厳しく批判されている。日本からなんらかの言質を引き出したいと考えるのは不自然ではない。

2島返還だけではプーチン氏の感覚では「引き分け」ではない可能性がある。「2島ならば帰ってくる」というような簡単な交渉ではない。

日本にとっては四島返還がベストだ。しかし、現実的ではないとすれば、セカンドベストは日ソ共同宣言に戻り、2島の先行返還、2島の継続協議だ。これが実現すれば国民もある程度は納得すると思う。

歯舞群島と色丹島の2島における日本の主権確認は最低条件だ。

だから、いわゆる「2島+アルファ」の「アルファ」の部分が問題になる。ベターなのは国後、択捉の主権について継続交渉とすることだ。その確約がロシアからとれなかった場合でも、副次的な主権のような形で自由な相互往来や経済活動などこれまでとは根本的に異なる権利を日本が獲得できれば、国民の評価は変わってくるかもしれない。


■「2島で終わり」で良いのか

 

しかし、ロシアは歯舞群島と色丹島2島の主権を引き渡したとしても、領土問題は最終的に打ち切る、つまり国後、択捉は永久にロシアのものだということを確認するよう求めてくるだろう。2島で終わりとなるとその説明は難しい。

2島返還で終わりで良いならば56年で決着している。東京宣言を含めていままで交渉してきた歴史に対してどう責任を負うかということも首相は明確にする必要がある。

首相が自分のレガシー(政治的遺産)を作りたいという気持ちはよくわかるし、それ自体は否定しない。しかし、歴史と日本の将来に責任を持つことができないのであれば、成果にこだわって無理に決める必要はない。首相は十分に慎重に考えてほしい。

 

 

<出典:毎日新聞「政治プレミア」http://mainichi.jp/premier/politics/

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