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◆日米同盟最大の試練(PHP社刊 月間「Voice」 2001年11月号掲載)3/3
〜いますぐに集団自衛権の憲法解釈を変更すべきだ〜
――独善的な孤立主義を突き進むブッシュ政権――
ビンラディン氏が関与したとされるアメリカを標的としたテロ事件は、過去にもいくつか起きている。今回も狙われた1993年のニューヨーク世界貿易センタービルの爆破事件、1996年のサウジアラビアの米軍基地宿舎爆破事件、1998年のケニア、タンザニアの米大使館の同時爆破事件、そして2000年10月のイエメン・アデン港に停泊中の米イージス艦爆破事件などである。したがって、今回のテロ事件の原因を、現政権の強靱な対外政策のみに求める意見にはくみしない。しかしながら、現政権の強引さ、独善性が多少の遠因になっていると受け取られるのは仕方ない面がある。
たしかに、政権交代が行なわれれば前政権の否定、変化を演出するのは当たり前だが、ブッシュ政権はそれが行きすぎてはいないだろうか。たとえば地球温暖化防止を謳った「京都議定書」からの離脱、自らが進めてきたCTBT(包括的核実験禁止条約)批准拒否、対北朝鮮政策の見直し、「中国=戦略的パートナー」の否定、そしてABM条約脱退をも視野に入れたミサイル防衛構想の強化など、枚挙に遑がないほどの変わりようだ。中国やロシア、北朝鮮からの反発だけではなく、「京都議定書」からの離脱表明やCTBTの批准拒否、そしてミサイル防衛構想の強引な推進には同盟国、友好国である日本やヨーロッパ諸国からも疑念の声が上がっている。
このような変化に対して、楽観的な見方もある。一つには上院で多数を占める民主党がブッシュ政権のやり方に厳しく異論を唱えはじめていることである。議会の同意を得るために現政権は必然的にトーンダウンせざるをえない。もう一つは、もともと政権交代後の大統領は、前政権との違いを明確にするため、極端に走ってしまう傾向があるが、時間とともに徐々に現実的なところに落ち着くだろうとの見方だ。たとえば、クリントン政権の対中政策は当初、厳しいものであったが、二期目には中国を「戦略的パートナー」と呼ぶまでに変化している。
しかし、アメリカのいまの振る舞いは、政権交代による政策の変更という生易しいものではなく、数々の国際公約の「キャンセル」と自国の利益さえ確保できればよいという独善的な孤立主義のオンパレードだ。
アメリカの身勝手な振る舞いは日本にも影響を及ぼすということを、できるかぎり相手を傷つけないで諭していくことも同盟国の重要な役割ではないだろうか。
――戦略対話のチームをつくれ――
日米同盟関係のあり方については今後、詳細な検討と再構築が必要だが、同盟関係そのものは今後も必要不可欠だと私は考える。軍事的には、日本にはパワープロジェクション能力がなく、それを補っているのが米軍であり、また平時においても一千海里以遠のシーレーン(海上航行路)防衛を受け持ってくれているのも米軍である。外交面では米軍がアジア大平洋地域に駐留・展開していることが朝鮮半島問題、中台問題、あるいは政情不安のインドネシア情勢への睨み、重しにつながっており、その基礎になっているのが日米同盟関係である。経済面でも米軍のアジア太平洋地域のプレゼンスのおかげでこの地域が安定したマーケット、投資対象地域として評価され、経済的な繁栄を全体としては享受できている。日本でいま、仮に日米同盟関係がなくなれば日本の脆弱性が高くなり、株や円、債権が暴落して深刻な経済危機に陥るのは前述のとおりである。
このごろ、ワシントンでよく耳にする言葉は「戦略対話」だ。私も「戦略対話」の必要性を痛感している。
今回のようなアメリカでのテロは、米軍基地をもつ同盟国・日本にも及ぶ可能性がある。なぜなら、同盟関係というのはある意味で一心同体であり、同盟相手国のリスクをともに負うことが同盟国には求められる。ともに戦ってくれる仲間を得ると同時に、仲間の紛争に巻き込まれる危険性も高くなるのである。
「日本が巻き込まれた」という結果は仮に同じだったとしても、日本もアメリカと「戦略対話」を続け、議論に参加して、いわば納得してそのような結論になるのと、まったく予期せず、相談も受けずに結果だけ共同責任として甘受させられるのとでは雲泥の差がある。
日米安保条約を結ぶとき、あるいは改定するときの有力な議論で、同盟関係を結ぶことによってむしろ日本はソ連から攻撃を受ける可能性が高くなるのではないか、あるいは米ソの対立に巻き込まれるのではないかというものがあったが、それはそのとおりである。同盟関係というのは「両刃の剣」で、同盟関係を結ぶことによって戦争が抑止されたり、逆に、同盟国の紛争に巻き込まれることもある。政治はこの事実をはっきり認めて、「冷戦時代は結果として巻き込まれなかっただけだ」「同盟というのはしょせん『両刃の剣』だ」と国民に知らせたうえで、同盟関係への理解を求めなければならない。
だからこそ「戦略対話」が必要になるが、外務大臣、防衛庁長官同士の「2+2」よりもさらに事務レベルで恒常的な協議機関をつくり、定期的に議論・意見交換を行なうことが重要だ。
その際、考慮しなければならないのは、日本側に「戦略対話」のチームをつくるということだ。アメリカは大統領の下に、ホワイトハウス、国務省、国防総省、そしてさまざまな専門家を交えてグループをつくり、アメリカの戦略をぶつけてくるはずだ。そのカウンター・パートナーである日本が役所に任せ、しかも外務省は防衛庁を入れる入れないで縄張り争いをしているのでは埒があかない。したがって、日本にも総理直属で外務省、防衛庁(制服も含む)、経済産業省のみならず政治家、専門家を含めたチームをつくり、日本の国家戦略の観点からアメリカとの協議に臨まなければならない。
また、日本は機密漏洩防止のための法律も整備しなければならない。NSC(米国家安全保障会議)のマイケル・グリーン日本・韓国担当部長は、「戦略対話を本気で行なうのであればCIAの情報などをべースにした意見交換も行なわれるだろうが、日本から情報が筒抜けになる可能性がある」と懸念を表していた。お互いの信頼関係に基づいた協議を行なうためには、その前提として、お互いが出し合う情報については漏れることのないような対策が必要である。
日本にとって大きな問題は、アメリカのミサイル防衛構想にどう関わっていくかだ。今回のテロで、ならず者国家やテロ集団からのミサイル防衛に備えなければならないということで、より議論に拍車がかかるのか、あるいは多様なテロ対策に資源を割り振るべきだとの考えからトーンダウンするのかは、現時点では不透明だ。いずれにしても、ミサイル防衛構想が引き続き進められることは間違いない。
ミサイル打ち上げの初期段階、とくにブースト段階における迎撃を日本が担当するとなれば、当然、集団的自衛権に関わる問題に直面する。しかも、衛星からの情報や人的情報をほぼ一手にアメリカが握っている状況から考えれば、ミサイル防衛においてはとくに、アメリカの戦略の一部に組み込まれることを意味する。防衛庁は、仮に配備しても主体的に判断するといっているが、情報源をほぼアメリカに頼り、また有事においてかなりの役割をアメリカに期待する防衛力構成になっていることを考えれば、主体的に判断するという言葉はむしろ空虚にさえ聞こえるのである。
いずれにせよ、日本としてはどのような防衛構想を今後描くのか、そのうえで日本独自で行なう部分と、同盟国であるアメリカに期待する部分を、もう一度再構築する必要がある。同盟関係を今後どのような姿にしていくのかというビジョンなしに、既成事実の積み重ねで身動きがとれなくなることが、最も避けなければならない事態であると肝に銘じるべきである。
したがって、日本はアメリカとの「戦略対話」を本気で行なうのであれば、事前の情報収集機能を強化しなければならない。多くをアメリカの情報に頼ってしまっては、客観的な議論ができなくなり、「他人のふんどしで相撲をとる」ことになりかねない。多目的情報収集衛星の打ち上げは決定されたので、あとはそれを処理する能力の向上と、人的情報収集能力の育成に努めなければならない、外交機密費は本来、このような目的で使われるものであり、趣旨の徹底と同時に、いま一度、人的な情報収集機能向上のためのグランドデザインを再構築しなければならないだろう。
最後に、では日本はどのような同盟関係をアメリカと結ぶべきなのだろうか。私は、そのモデルを米英同盟に求めることはしない。人種構成や使用言語などからも容易にわかるように、アメリカとイギリスは明らかに特別な関係である。だからこそ、イラク空爆という個別のオペレーションについても共同で対処する仕組みにまでなっている。
日本とアメリカは明確に役割分担を決め、そして協力する部分についてはしっかりと事前の協議を行ない、法整備や訓練なども十分に行なわれるべきだ。あくまでも日本は、自らの国は基本的に自ら守るという姿勢を貫いて、足らざる部分、物理的に不可能な部分については同盟国であるアメリカに頼るという明確なメッセージをアメリカに示し、そのうえで実りのある「戦略対話」を積み重ねていくことが肝要である。

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