|
◆日米同盟最大の試練(PHP社刊 月間「Voice」 2001年11月号掲載)2/3
〜いますぐに集団自衛権の憲法解釈を変更すべきだ〜
――まさに同盟国としての資質が間われている――
翻って、日本に何ができるのか。ようやく二本柱からなる具体的支援の骨格が決まった。一つは在日米軍基地など、日本国内にあるアメリカの施設区域の警備を自衛隊ができるようにする内容だ。現在、日米で共同使用している基地は例外として、自衛隊に領域警備任務が付与されていないため、自衛隊は警備を行なえない。「警備はそもそも警察が行なうものであり、自衛隊を出す場面がくれば、治安出動を発令すればいい」という意見が根強くあるが、その意見は自衛隊と警察のもつ装備面での能力の大きな違いを看過し、またその能力に裏づけされた抑止効果を無視している。また何よりも、事が起こってから、被害が出てから自衛隊を動かすという後手を黙認している点で、この議論は説得力に欠ける。
二つ目は、米軍の軍事行動の後方支援を行なう内容である。「わが国周辺の地域におけるわが国の平和及び安全に重要な影響を与える事態」と認定されれば、いわゆる周辺事態法が適用され、米軍への食糧や水の供給、人員の輸送などの協力が可能になるが、「周辺事態は地理的な概念ではない」とはいえ、今回のケースを周辺事態と認定するにはかなり無理がある。そのため、特例法として新規立法を行ない、米軍の後方支援を法的に裏付けようとしている。
私は、この方向性はおおむね正しいと確信している。基本的にアメリカは単独で報復する能力をもちながら、協力を広く国際社会に求めている。それはアメリカが、できるだけ多くの国が共同・連携して、テロに毅然と立ち向かう姿勢を示すことを望んでいるからである。もっとわかりやすくいえば、アメリカは「ともに汗をかいてくれる伸間」を募っているのだ。また、それは「テロVS反テロ」という国際世論を作り出すことで、ともすれば潜在的に煽っている「アラブVSイスラエル」「イスラム教VSユダヤ教またはキリスト教」という相手の思惑を封じ込めることにもなる。
そんなときに「気持ちはあるが法律の制約上何もできない。金は少し出すので理解してほしい」という日本のスタンスは、多くの仲間をテロで失い、怒り心頭のアメリカ国民に受け入れられるだろうか。まさに同盟国としての資質が問われているのだ。
湾岸戦争のときには約120億ドルも出しながら、クウェートが感謝を表すために出した新聞広告に国名が載っていなかった日本。そのとき以上に厳しい現実が待ち受けていると肝に銘じるべきである。
しかも、もし日本が同じようなかたちでテロを受けた場合、日本は独自で報復する能力をもっていない。「専守防衛」を「盾」の役割に特化させ、水際で敵を追い払うことを主眼に、日本では防衛力の整備が行なわれてきた。そのため、自衛隊には海外のテロの拠点を叩く能力、つまり「矛」の能力が欠落している。日本を標的としたミサイル基地の攻撃など、その必要性が生じた場合には、日米安保条約に基づいて米軍がその機能を果たしてくれることを日米安保条約第五条は期待している。
つまり、「アメリカに何かがあったときには日本は協力できないが、日本に何かがあれば、アメリカは日本の代わりに危険を覚悟で引き受けてくれ」というのがいまの日米安保条約、そして日本の法整備の現状なのである。
したがって、同盟国であるアメリカが苦しんでいるときにこそ、目に見える、アメリカ国民も納得してくれる支援を行なうことが、たんなる精神論にとどまらず、同盟関係のリスクマネジメントの見地からも必要なのである。
長期的な展望に立って、同盟関係を解消しようという考えはあってもよいと思う。しかし、現時点で、突然に同盟関係がおかしくなることは日本の国益にまったくならない。
同盟関係が崩れるということは、たんに日本が自国の防衛に責任をもたねばならないという問題にとどまらない。最初に直面するもっとも大きな問題は、アメリカの軍事的な支えがなくなることによる経済基盤の脆弱化なのである。短中期的に株や為替は下落し、長期金利の上昇も避けられない。日本への投資も減るだろう。このことは構造改革、とくに財政の立て直しを行なおうとしている日本に致命的な打撃を与えることになる。つまり同盟関係の崩壊は、日本の経済活動に大きな悪影響を及ぼすことをつねに念頭に置かねばならない。
新法の内容は、自衛隊が周辺事態でなくとも米軍を支援でき、英領ディェゴガルシアやパキスタンという他国の領土へも自衛隊が行き、物資の輸送も行なうというものだ。
私は支援の内容自体に文句をいうつもりはない。ただ、いままでの集団的自衛権に関する憲法解釈をさらに曖昧にして、武力行使と一体になっていなければ、場所がどこであろうと何でもできるとすることに、なし崩し的な無節操さを感じざるをえないしまた、現行法でもイージス艦がアラビア海で警戒監視活動を行なえるとか、先日、第七艦隊の空母キティホークが横須賀を出港するとき「調査研究」という名目で実質的な護衛を海上自衛隊の護衛艦が行なうという、法を軽視した姿は、法治国家の形骸化につながり、対米協力の必要性を理解する国民にすら支持されなくなる。厳に慎むべきである。
私が総理なら、いますぐに集団的自衛権の憲法解釈を変更し、法に基づいて、物資や要員の輸送・補給、捜索・救難活動、対潜哨戒活動などを通じての情報提供、あるいは機雷除去などの後方支援活動が行なえるようにするだろう。
外交面での努力も精力的に行なうだろう。最も重要なのは、イスラム圏においてはあくまでも穏健派が大多数で、テロを企てた過激派原理主義グループはごくわずかだという認識をもちつつ、「テロ阻止のための共同歩調の恩恵」をさまざまな支援というかたちで実感してもらわなければならない。
また、アメリカに協力するという基本的なスタンスは保ちつつ、報復を行なうにあたっての説得力ある説明、たとえば首謀者特定の証拠や攻撃場所を特定した根拠などをアメリカに求める。また、できるだけ民間人を巻き込まない努力、過剰な報復の回避、そして長期化、泥沼化、拡散しないための工夫をアメリカに要請することも、同盟国として、何よりも日本国民へのアカウンタビリティー(説明責任)の観点から必要である。

|