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◆民主党前代表に聞いた対外情報機関の必要性(『月刊セキュリティ研究』 2006年7月号)◆

■堂々と主張しながら大人の外交を貫く

―このところマスコミでもよく領土問題が取り上げられていますが、ぜひ先生のご意見をお伺いしたいと思っておりました。

前原: 日本は領土問題を二つ抱えています。一つは北方領土、もう一つは竹島。日本の固有の領土である北方領土と竹島が他国の実効支配の下にあるのは大きな問題だと思います。
 中国が尖閣諸島は自らのものだと言っていますが、我々は領土問題だと思っていませんので、これを含める必要はないと思っています。我々が実効支配していて、守り続けるということしかないでしょう。
 領土問題は平和的に解決すべきだと考えていますので、外交交渉が不調に終わったときに、力でもって奪還するのかと言えば、それは取るべき選択肢ではないと思っています。
 自らの主張を続けながら、例えば日韓なら暫定水域、それから海底における地名の問題についても、外務次官級で谷内正太郎さんがよくまとめられましたが、お互いの信頼に基づいた合意によって、お互いに過剰な行動を慎み、暫定的にではありますが、いわば大人の解決をしました。これは良かったと思います。

―韓国の竹島報道はかなり過熱気味でした。

前原: 竹島については、なぜ実効支配をしている側の韓国が騒ぎ立てているのか、というのが率直なところです。日本には厳しくして、民族主義を煽り、北との宥和政策をとるというノムヒョン(漢字)の政策によって、日本と距離ができ、隙間風が吹くようになりました。体制の違いがありながらも、独裁軍事国家である北朝鮮と、民族が同じということを強調しようとしています。
 ただ、申し上げることはしっかり申し上げた上で、今まで積み上げてきたお互いの了解を大事にしていくべきです。我々としては主張するのが当たり前、ということを理解してもらうような外交努力が必要です。

―韓国国内では相当、反日感情を煽っているようです。

前原: 国際社会から見れば、かなり大人げないこともしています。 
 例えば、島根県議会の竹島の日制定が発端の一つになったわけですが、これは県議会の議決であって、国は何のリアクションも取っていないのに過剰に反応しました。過剰反応の証左として、韓国の地方自治体が壱岐・対馬はわが国の領土であると決議しましたが、これについてはさすがのノムヒョン(漢字)政権も否定的な見解を示さざるを得ませんでした。
 極めて冷静さを欠いた対応が韓国では続いています。実効支配しているのですから、大人の対応をすることが大事ではないでしょうか。

―最近の報道を見ると、歴史的にも違うのではないかということがあるようですね。一つ一つ洗い出せば、竹島がどこのものか、わかるはずです。

前原: お互いに領有権を主張するのであれば、例えば国際司法裁判所に、歴史的に見て国際法上どちらの国のものなのか、判断を求めてもいいでしょう。おそらく韓国は受け付けないでしょうが。
 その方法も含めて、我々は堂々と外交的に解決していくという今までの姿勢を貫けばいいと思います。感情的にならずに。

■省庁で密かに握られたままの対外情報

―領土問題でもそうですが、いつも感じるのは情報不足です。しっかりした外交をするには、対外情報を収集する能力、分析する能力を高めなければいけないと思います。

前原: 日本の役所には情報コミュニティと言われるものが、いくつかあります。外務省、防衛庁、警察庁、公安調査庁、それから国土交通省の管轄である海上保安庁、法務省の管轄である入国管理局など、さまざまなものがありますが、それらの情報が内閣で一元化されているのでしょうか。
 出している情報と出していない情報があるように思います。まず、テロ情報、北朝鮮情報、領土・領海・海洋権益にかかわる情報については、各役所が包み隠さず、一元的に内閣に上げるべきです。そして情報を分析し、政策決定に資する形にして、日本の国家戦略にかなった判断の元にならなければなりません。しかし、その機能は非常に弱いと思います。

―具体的にどのような手立てをとればいいのでしょうか。

前原: 私は以前から二つのことを申し上げています。一つは、今の情報コミュニティの情報をシステムとして統合する省庁横断的な組織を内閣官房につくるべきであるということです。
 イギリスにはJIC(Joint Intelligence Committee、統合情報委員会)と言われるものがあります。私も視察をして事務総長に話を聞いてきました。旧ウェールズの情報、テロ情報、旧植民地の情報などは必ずJICに上げるよう法律で規定しています。それを情報分析官が分析して政策に落とし込み、あるいはブレア首相の政策判断に生かされる仕組みになっています。縦割りの情報遮断の弊害を組織的・法律的に統合することにより、極めて戦略的な行動をとれるようにしているのです。

―今は内閣調査室というのがありますが。

前原: 内閣調査室では弱い。それに、各情報コミュニティが必ず情報を上げなければならないという仕組みになっていませんので、各役所が情報を隠し持って、それぞれの優越性を保持しています。正に省益あって国益なし。日本版JICを法律に基づいて設置すべきです。
 もう一つ、対外情報の収集を専門にする機関をつくるべきです。国内情報ですと国民のプライバシーの問題などが出てきますが、イギリスのMI6、アメリカのCIAのような組織、対外情報をしっかりつかむ組織が必要だと私は思います。防衛庁、外務省、海上保安庁、入国管理局などと緊密な連携をとりながら、しっかり情報を収集し、テロの未然防止、日本国の行政機密及び日本企業の機密をガードするような仕組みをつくっていかなければなりません。

―日本はやられ放題でスパイ天国。国益を考えるとたいへんです。一日も早くおっしゃるような組織をつくる必要がありますね。

前原: 今年で戦後60年、還暦を迎えます。そろそろこういった議論が当たり前に行われなければいけません。
 むしろ我々野党から提案していったほうがいいでしょう。実際に緊急事態法の中で日本版JICとか日本版NSCなど、国家戦略を省庁横断的に考えて情報を分析する機関をつくるという法案も出しています。
 日本の最大の問題の一つは縦割り省庁の弊害です。これが政策決定に悪影響を及ぼし、既得権益で税金の無駄遣いにもつながっています。国家統一的な戦略遂行の大きな妨げとなっているのです。

―報道の合間からいろいろな省庁の情報隠しが推測されますが、やはりそれぞれ、いわゆる「隠し球」を握っているんですね。それが自分たちの保身ばかりに役立って、国家戦略や外交に使われないなら、何の意味もありません。

■自ら得た情報で自ら判断できる日本へ

前原: これからの安全保障でひとつのキーワードは情報、インテリジェンスだと思います。
 戦後60年、日本が今後どのような国に変わっていくべきなのかと聞かれたときに、私は自分の国を自分で守れる国と答えています。
60年間日米同盟にどっぷり浸かった体制ですので、これを断ち切るのは現段階で非現実的ですから、日米同盟関係をうまくやっていくのは大事ですが、自分の国は自分で守るという原則をどう打ち立てるかがもっとも大事でしょう。
そのためにいちばん重要なのは、自ら判断をするために自ら情報を得る、得られることです。アメリカに頼った情報、他国に頼った情報による判断は、自らの判断ではありません。他国の情報にはバイアスがかかっているかもしれませんし、自国の有利になる情報しか流していないかもしれないからです。場合によっては捏造している可能性もあります。そんなもので国家の大事な判断をしてはいけません。

―現に、イラクに大量破壊兵器があるというアメリカの情報を鵜呑みにしてしまいました。

前原: 正にこれに当てはまります。存在するというのがアメリカの正当性の言い分でしたが、結果的になかったわけです。情報は自前でとって分析し、政策に生かす仕組みをつくることが、何より重要です。

―情報機関と聞けば、戦前の方はスパイ組織かと顔をしかめたり、戦後生まれでもKGBを思い出す方がいるかもしれません。

前原: 何を目的とする機関をつくるかを、明確に国民に知らしめることです。国際社会では、自国の国民をどう食べさせ、どう発展させていくかというそれぞれの国の国益に基づいて動いています。基本的に他国の国益を考えていてくれるということはないわけです。
 ですから、自らの判断ができるような情報収集を専門的に行う機関をつくるのは当たり前のことだと思います。

―確かに高度情報社会となって、違和感はなくなりつつあります。その機関に投入する人材、情報分析官などは、なかなかすぐに育ちませんね。

前原: 育ちません。イギリスでも5〜6年はまったく役に立たないという話を聞きました。情報を見る目を養うのに時間がかかりますし、専門官をどう育成していくかも大事なポイントです。

―最初は、少しでも経験のある人材、いるとすればですが、そういう人を集めて立ち上げるということになるのでしょうか。

前原: それぞれの情報コミュニティから片道切符で来てもらうことになるでしょう。腰掛ではダメ。また、その機関のキャリアパスはステータスの高いものでないといけません。
専門官の養成も必要です。トータルで見れば最低でも5年、10年はかかる話だと思います。

―個人情報保護法が施行された関係で、国民も少しすつ情報というものに興味を持つようになってきました。今は以前より理解が得やすくなっているのかもしれません。

前原: 国民に対して、何のためにそれが必要なのか、オープンに議論していくことです。例えば、エシュロン(Echelon)と呼ばれる通信傍受システムの実態、外務省・防衛庁の情報収集の現状も明らかにするべきでしょう。情報をお金で買うのは当たり前という認識を国民にもっていただくには、しっかりした説明が不可欠です。国の大事な判断に資する情報を海外から集めることの必要性、そしてそれがどう政策判断に生かされるかを、きっちりと国民に説明することが大事なのです。
 私は国民は馬鹿ではないと思います。目的や暴走しない仕組みをわかりやすく、しっかりと話せばいいのです。

―暴走しない仕組みが不安全だと、たいへんなことになります。

前原: 最後はシビリアンコントロール、国会のチェックです。例えば日本版JIC、MI6、CIAなどをつくる。そこで得た情報については、国会議員も含めた公務員の守秘義務を厳しくした上で、例えば衆参両院に情報委員会のようなものをつくり、非公開で議論と活動内容をチェックするという仕組みが必要でしょう。

―国会議員の皆さんの意識を高めないといけません。

前原: その通りです。
 秘密会というのが国会にあります。例えば、自殺された新井将敬さん、泉井さんの問題で山崎拓さんなど、秘密会が何度かありましたが、すぐに漏れてしまいます。マスコミからマイクロテープなどを渡されて、取材協力している議員もたくさんいます。

■臨機応変に拡大解釈を続ける政府見解

前原: じつは、国会議員に守秘義務を課す法律は憲法違反だという話もあり、法制局と話したとき、憲法上問題が出てくるとも言われました。憲法改正にもかかわってくることです。 憲法51条に「両議院の議員は、議院で行った演説、討論又は表決について、院外で責任を問われない」とありますが、これが守秘義務にかからないという解釈になっているのです。

―国会議員ほど守秘義務を遵守している人はいないと思っていました。

前原: 私の知人がホワイトハウスで働いているとき、「同盟国として、秘密の情報をシェアし、日米協力をより緊密にするかについて話したいと思うが、日本の国会議員はすぐに漏らして政局に利用するから、話せない」と、はっきり言っていました。   また、公務員の守秘義務違反は、懲役にしても罰金にしても罰則が非常に軽いのです。例えば、1億円の対価があったものでも、守秘義務違反に問われて罰金が何十万円。   守秘義務違反、機密保持のしっかりした法制を、憲法の条文も含めて見直していかないといけません。

―民間の企業でも漏洩事件が頻発していますので、国全体で情報保全の意識を高める必要がありますね。

前原: おっしゃる通りです。

―最後に憲法改正問題についてお伺いします。

前原: 今日から国民投票法の議論が始まりました。   
今国会では無理だと思いますし、小泉さんも関心がおありではないので。継続審議になっていくでしょう。   
憲法改正の必要性を国民はどこまで認識していくかということになりますが、やはり憲法問題は9条です。ハードルが高いのであれば、われわれのような感覚の人間からすると、ではさらに拡大解釈をするのですかと問いたい。今でも十分、拡大解釈ですから。まともに読めば、戦力の不保持と書いてあるわけですから、自衛隊は憲法違反です。   
法制局見解では「9条では集団的自衛権の行使を否定しているが、保持までは否定していない」としていますが、そんなことはどこにも書いてありません。正に解釈です。そうすると、何か起こったときにまた、「限定的に集団的自衛権を認めることは憲法の主旨に則っている」として、解釈を変えるのです。むしろ私はそのほうが危険ではないかと思います。

―法制局の話は、何かそのときの都合のような感じがしますね。

前原: もともと、GHQが日本の再軍備を阻止するために日本国憲法の9条ができましたが、冷戦の激化、朝鮮戦争の勃発など社会環境の変化を受けて、解釈変更してきたものです。それが60年も続いています。   
新たに拡大するということではなく、日本が自分の国は自分で守る意識を国民全員が持つために、9条では戦争の放棄を残し、2項の戦力の不保持を削除して、国家の自然的権利である自衛権は保持する、つまりわれわれに自衛権はあるんだという形に書き換えるのが、きわめて自然であり、健全だと思います。


―正に国民全員が国民投票法、憲法論議の行方をしっかり見ていかなければいけませんね。また、自前の情報で外交や国家戦略を立てるための法律は、ぜひ実現させていただきたいものです。本日はありがとうございました。