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◆ 民主党は生き残れるか。 (中央公論 一月号) ◆

党内の大反対、小沢代表の辞意表明、慰留工作・・・。「大連立」構想をめぐり、民主党は大混乱に陥った。果たして政権交代可能な政党となる道は残されているのか。党副代表の前原氏に聞く。

 

政策協議まで否定するな

橋本 自民・民主両党首の「大連立」構想をめぐり、民主党には激震が走りました。まず、この構想を最初に小沢一郎民主党代表から聞いた時の感想から聞かせてください。

前原 「大連立」構想が党内に持ち込まれたタイミングというのは、今夏の参院選でわが党が大勝し、安倍晋三前首相の突然の辞任劇が展開され、業者との癒着が取りざたされた守屋武昌前防衛次官の証人喚問が行われたその直後でした、我々は大変な戦闘意欲を持って臨時国会に臨もうとしている最中でしたから、あまりの唐突さに驚いたというのが率直な感想です。

 一方、今回は大半の民主党議員が小沢代表の提案に堂々と反対意見を唱え、構想を即座に却下しました。これまで小沢代表に対し、表立って反対意見を唱える議員はほとんどいませんでしたから、そうゆう意味ではわが党の良識が発揮されたと思います。

橋本 しかしながら、衆院では自民党が、参院では民主党が第一党であるというこの「ねじれ現象」は当面、解消しそうにありません。互いに激突しているだけでは何も決まらず、このままでは国民生活にも大きな影響を与えかねない。この現実をどう打開すればいいでしょうかね。

前原 十一月中旬に党の常任幹事会が開かれ、私はこの席上、「政策協議については大いに行うべきだ。主要なテーマに関しては、民主党は対案を示し、参院で民主党が第一党であることを梃子に、修正を求めてより良い政策を実現できるよう努めるべきだ。」と提案しました。

 ところが、小沢代表からは、大連立について党内で否定されたのだから、政策協議も否定されたことと考える・・・という趣旨の発言がありました。しかし、それは違う。大連立を大前提として政策協議を行うのが間違っているのであって、平場で、要するに委員会をはじめとする国会の場で議論することが重要なのです。

 チャンスでもあるのです。これまでは衆参ともに自民党を中心とした与党が圧倒多数を占めていたので事前承認を経てしまえば、後は一字一句変えない。たとえ、国会でよい議論がなされても、修正に結びつくことはありませんでした。国会が機能していなかったといってもいい。今日、衆参ねじれたことによって、国会を機能させる絶好のチャンスが訪れたのです。

橋本 そう思います。ところが、小沢代表が突如として大連立構想を提案したせいか、今、民主党内には政策協議すらいけないといった雰囲気が蔓延している。これは問題がありますね。

前原 ですから、私は鳩山由紀夫幹事長に対し、「政策協議そのものを否定しないよう、党内に徹底してほしい」と要望しました。我々は、民主党のために政治をしているのではありませんから。国民のために平場で議論し、より良いものをまとめるべきです。

 ドイツなどは、提出された法案の七、八割は、国会の場で修正されて成立します。日本も国会をそうした場にするべきで、現時点でいきなり「大連立」にまで発展させるのではなく、まず、国会を本来あるべき姿に戻すべきだと思います。

橋本 過日、大規模な自然災害の被災者支援を充実させる「改正被災者生活再建支援法」が衆参両院の本会議で、ともに全会一致で可決しました。与野党共に歩み寄ることによって、こうした¨成果¨を出すことが必要です。「ねじれ現象」を乗り越えるためには、政策協議をもっと恒常化させればいいんです。

前原 ただ、事前の政策協議会には難しい側面もあるんですよね。たとえば、私が党代表だった時分には、年金の制度改革をめぐり、自公民で与野党協議会を設置し、非常に苦労した経験があります。

 莫大な財政赤字が存在する中で年金制度の安定化を図ろうとすれば、最終的には財源の問題にぶち当たります。もちろん、行革を進めるのは大前提なのですが、増税を含めて野党に共同責任を負わせる・・という与党側の意図がありありと分かる。政策協議の間合いの取り方というものは非常に難しいと実感しました。ですから、私は、自民、民主に公明を含めた協議会などを設けて、こそこそ話し合うという手法は忌避するべきだと思います。あくまでも委員会など議会で議論するべきだと思っています。

 

与党と修正合意できてもいい

橋本 小沢代表の手法で大変気になるのは、選挙に勝つことを第一義としている点です。安全保障などの大事な問題でも、選挙における対立軸を示すためだけに反対を唱えているとしたら極めて邪道です。

前原 わが党が対案を作成する際、小沢代表からは、与党が到底、同意できないような対案を作れ・・・と指示されてきました。与党が同意できるような対案を作り、修正を通じて法案を成立させたとしても、政策を実現したという¨手柄¨は与党に取られてしまい、結果的には解散に追い込むことができなくなるからだという。しかし、こうなると議論はどんどん極端になる。

 仮に、そうした激突によって民主党が衆院選を勝ち抜いた場合どうなるか。わが党は行革などにより15.3兆円の財源を新たに創出することができるとして、その財源で原則、すべての農家に支払う「戸別所得保障制度」を創設することなどを公約に掲げています。しかし、行革を進めたからといって、即、15.3兆円もの財源が確保できるかといえば難しい。農家の所得を保証すれば即、農業が再生するわけでもない。農業にはもっと本質的な問題もあります。上場企業を含めた法人の参入を認めることなどが必要ではないかと思いますが、こんなふうに与党が同意できそうな提案はダメだと。政権交代を目指す政党でありながら、こうしたジレンマは抱えざるをえない。

 もし、私が党代表であるなら、我々の対案に与党が乗っかってきてもかまわないのでともかく現実的な法案を出します。成果物はすべて与党の手柄になるというけれど、私はそうは思いません。極端な議論をするよりも、愚直に現実的な対案を出し続けるだけで、有権者から「政策担当能力がある」とみなされる。それが政権交代につながると考えています。

「大連立」の前にするべきこと

橋本 民主党内には「大連立」イコール「大政翼賛会」という意見もありましたが、これはあまりにも硬直した考え方だと思います。思考停止に陥りかねない。大きな課題が立ちはだかるときいは大連立をも模索する柔軟性が求められると思います。

前原 私は「大連立」という考え方そのものを完全否定するつもりはありません。ただ、その前にするべきことがある。繰り返しになりますが、まずは形骸化してしまった国会の機能を取り戻すことが先です。それでもどうしてもまとまらない、大きな国難にぶつかったときには、大同団結という手法もあるのかもしれない。また、思い入れをこめて申し上げればその先に政界再編を含めて、もう少しすっきりした二大政党制を模索する時がくるかもしれない。それは否定しません。

ただ、強調しなければならないのは、あくまでも現段階において、我々のすべきことは選挙で政権交代を求めることなのです。政権交代可能な二大政党制を樹立することは、私にとっても悲願です。小選挙区比例代表並立制の導入には私自身も汗をかいてきました。やっとここまできた。ですから、なんとしても選挙によって政権交代を図りたいと思っているのです。

橋本 二〇〇三年のことになりますが、有事法制三法の成立に際して旧民主党が徹底的に対案を突きつけ、修正合意につなげたことを高く評価しています。あれは良かった。有事法制が整備された後、民主党の支持率は上がりました。政権政党となるための実績づくりとはそうしたものだと思います。

一九六六年に西ドイツ(当時)では、保守系のキリスト教民主・社会同盟と左派の社会民主党が大連立に踏み切りました。この大連立の大義は非常事態法の整備です。占領軍が保持していた非常大権を主権として取り戻すことに成功したのです。こうした大目的のために連立し、大きな政策を実現したことで、万年野党化していたはずの社民党が六九年には大きく議席を伸ばし、政権与党となっています。

 今回の自民民主の大連立構想でも、国の将来に関わる大きな大義を前面に出すべきだったのです。

 大連立は今後の課題としても、解散して仮に自公が過半数を占めても3分の2を下回る可能性は極めて高い。とすれば、この「ねじれ現象」はさらに深刻なものになります。新たな秩序づくり、ルールづくりを考えなければなりません。

前原 党首会談、党首討論を頻繁に開き、国民のための政治をしているのだということを肝に銘じなければならないと自戒しています。遠い将来には、逆のねじれもありうるわけですから、今こそ知恵の出しどころです。

 

「直近の民意」という陥穽

橋本 ところで、原理原則論になりますが、こうしたねじれ現象を抱えている機会に、衆参のあり方についても確認しておく必要があると思います。

 参院で否決された法案を、衆院で3分の2以上の賛成多数によって再可決することについて、民主党は「横暴だ」と批判する。しかし、この衆参の本格的なねじれを予見し、その解決策として、3分の2を規定したのは60年前に制定された憲法です。首相指名選挙でも衆参が割れた場合は衆院の議決が国会の議決です。

民主党は3分の2カードを切れば首相の問責決議案を提出するという。可決されれば国会は動かなくなるので事実上、不信任決議と同じ効力を持つ可能性が高い。これは衆院の優越を認めている憲法の精神を無視していませんか。

前原 大枠としてはご指摘の通りだと思います。ただ、直近の民意は選挙を終えたばかりの参院です。衆院で可決され、参院で否決された場合どちらが民意に近いのかと言う議論は当然ある。だから、我々が問責決議案を提出することは政治の駆け引きとしては間違っていない。法的拘束力がないのですから、解散するかどうか、それは福田康夫首相の判断です。

 ちなみに、私自身は一定の条件を付けた上でのことですが、インド洋での給油活動は必要だと思っていますから、福田首相は3分の2カードを堂々ときればいいとも思っています。

橋本 解散に追い込んだとして、仮に与党が過半数を占めたら「直近の民意」も衆院優先になります。民主党が言う直近の民意の落とし穴がここにある。

前原 衆参のねじれは初めて経験する事態ですから、そうした議論もあっていいと思います。また、ここで解散するかどうか。これは福田首相の気迫の問題です。それで、自公が勝てば全然違った形になるのかもしれません。あるいは、大連立の敷居がより低くなる可能性もありますね。

 私が一番心配しているのは〇八年の三月三十一日から四月一日をどう迎えるかです。というのも、予算の議決は衆参で割れれば衆院の議決が国会の議決となりますが、予算関連法案が参院で否決されれば予算は執行できません。特に、現在、道路特定財源に上乗せされている暫定税率は本年度末で期限切れとなります。延長のためには租税特別措置法改正案が成立する必要がありますが、否決されれば二兆円以上の税収欠損が生じます。道路特定財源に依存している地方では公共事業の一割ぐらいは執行不可能になるかもしれない。三分の二を使わなければ国民の生活にも大きな影響を及ぼしかねません。

 このリスクを回避しようとしたら、二つの手しかありません。@法案の修正に与野党が合意して年度末を迎える。Aその前に解散する。福田首相の気迫、本気度が問われるのはそう遠いことではありません。

 

小沢代表に必要な我慢

橋本 ところで、小沢代表が辞意表明をした際に、「民主党はいまだ力量が不足していて、次期衆院選勝利は厳しい」と発言されました。代表からそう言われてどう思いましたか。

前原 参院選での勝利は自民党の敵失が主因だとは思います。にも拘らず、党内には根拠もないままに「次の衆院選では勝てる」という雰囲気が蔓延していました。ですから、小沢代表の危惧はよく理解できます。

 ただ、力量は・・・ないかもしれませんが、それこそが代表自身の責任と考えるべきなのです。仮にそう思っていても外に向かって言っていいことではない。強い不快感を持ちました。

橋本 自身の党を批判し、辞意を表明した際に引き止めたのは正しかったと思いますか。小沢代表が民主党を割ることを恐れたのでしょうか。

前原 管直人代表代行は「党が割れる」と大変に懸念していましたね。私が引きとめた最大の理由は、党首が次々と変わるのは良くないと思ったからです。自戒の念もこめてそう思います。岡田克也副代表も同じ意見でした。そのたびに党内が混乱するのは避けたいと。

橋本 個別にも会っていましたよね。

前原 ええ。短期間に収束されるべきだと思いました。先送りしていては違う局面になってしまう危険がある。民主党もリスクマネージメント能力が付いてきたということです。(笑)

橋本 小沢代表は、民主党の力不足を感じて、大連立を実現して実績を積み重ねることが大事だと考えたわけですが、事前に党内に説明しなかったためにあれだけの反発を招きました。もう少し説明していたらと、残念でなりません。プロセスを重視しない、不透明だといわれてきた小沢代表の手法が象徴的に現れました。

前原 党首が自分の考えを打ち出し、「付いて来い」という姿勢を打ち出すことは大切です。全てがボトムアップで決まり、党首が方向性を打ち出さないといった組織では困ります。ただ、小沢代表の場合は極端で、小沢代表の場合は極端で、自分の方針に従うのは当然だという感じで。顕著だったのは今回の新テロ特措法案です。インド洋での活動は「憲法違反」と言い切った。けれど、旧民主党は01年にテロ特措法成立の意義を認め、この法律を成立させる際に自衛隊の派遣期間などを定めた基本計画についても賛成しています。ですから、ここにきて「憲法違反だ」などとされると困るわけです。これは、外務防衛部門会議で議論し、あれは小沢代表個人の意見であって、党の見解ではないということを確認しました。

 確かに民主党はばらばらで、集約できていない部分もありますが、それをまとめるのがリーダーの仕事です。トップダウンだから決まるというのはむしろ逆で、もう少し丁寧な党内議論を経た上で、物事を決めていくという慢強いリーダーシップが大切だと思います。

ただ、今回の新テロ特措法案の採決では、衆院では造反者はいませんでした。私も含めて青票を投じています。党としてきちんと決めたことを守ったという意味では良かったと思います。

橋本 今回の新テロ特措法案の反対の理由については小沢代表、アメリカの戦争を支援する法律で、国連での枠組みでの行動でないから認められない・・・としています。一方、前原さんはインド洋上での給油活動は国連決議に準ずるとしています。議論の出発点がまるで違うのに、前原さんが青票を投じて良かったのでしょうか。

前原 米補給艦への補給量を二〇万ガロンから八〇万ガロンに訂正したこと日本からの給油を受けた米補給艦がイラク戦争に参加した空母に給油していたこと、補給艦「ときわ」の航海日誌が¨誤破棄¨されたことなど、あまりに不透明だからです。守屋前次官の問題も出てきて、本当に防衛省、自衛隊にシビリアンコントロールがきいているのかどうか分からない。だから、反対したのです。

 ただ、新テロ特措法案への対案として民主党がまとめた骨子は、停戦合意ができた地域に自衛隊を派遣するという内容にとどまり、法案化できていません。停戦合意が六年間もできないからああいった状況になっているのに、そんな現実的ではない骨子だけでは政権政党たりえないと思われても仕方ないという忸怩たる思いはありました。

「国連中心主義」の危うさ

橋本 小沢代表の言う国連中心主義には大きな疑問があります。

前原 国連というものは、日本では素晴らしいものという受け止められ方をされていますが、元をただせば第二次世界大戦後に戦勝国が作った戦後レジームでしかありませんでした。いうまでもなく、常任理事国は米英仏中ロであり、国連加盟国一九二ヵ国中一九一ヵ国が同意しても、常任理事国一ヵ国が拒否権を行使すれば何も決まらないわけですから。

 過日、ミャンマーで軍事政権が民衆を抑えつけたときも、国連決議を骨抜きにしたのはミャンマーと資源などで利害関係のある中国でした。ことほど左様に、国連とは各国の思惑、利害のぶつかりあう場所です。こうした国連の決議がなければ何もできないというのでは自縄自縛に陥ります。国連中心主義というのは信仰に似ている。極めて形而上学的な考え方だと思います。

橋本 国連自身だって、それぞれの個別の自衛権と集団的自衛権を認めていて、国連が動くまでは固有の権利で対応しろ・・・ということになっていますからね。

前原 今はある程度機能していますが、最も米ソ対立が苛烈を極めた冷戦の最後ごろに国際政治学を学んだ私からすれば、国連は機能しないというのが¨常識¨でした。今でも米国は自分の都合の良いときは国連を活用するけれど、そうでないときには国連を度外視して行動します。これからは中ロが台頭しますから、国連が機能しない局面が出てくると思います。この国連を金科玉条のように考えるのは土台、無理な話です。

橋本 その一方で差し迫った人権問題などで国連が機能しているのも事実です。平和維持活動(PKO)などが良い例です。こうした活動に対して、武力行使を伴う活動はできない・・・とかたくなにいうのは小沢代表が指摘するとおり、考え直すべきですね。

前原 その通りだと思います。安倍政権下で、集団的自衛権に関する個別事例を研究する有識者会議が設けられ、米国に向けて発射された弾道ミサイルをミサイル防衛(DD)システムで迎撃するケースなど四種類について、現行憲法下で可能かどうか議論していました。これがまとまらなかったのは残念です。会議を閉じたとは聞いていないので、ぜひ、福田政権下でまとめてほしいです。

橋本 安倍前首相は憲法から教育まであらゆるものを変えようとしたから反発にあった。福田内閣は「言わぬが花」というか、何でも先送りです。そうすると、行動する小沢代表が一人、逆に目立ってしまう。問題ありますね。

前原 何をしたくて総理をしているのか見えてきません。一〇〇日の蜜月を過ぎたら、有権者に存在意義を厳しく問われるでしょう。たとえば、成長派なのか財政再建派なのか。日米同盟、アジアとの外交をどうしようとしているのか・・・。何も見えてこない。民主党が活発な議論を仕掛けて、浮かび上がらせなければなりません。