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◆ テロ特措法をめぐる波瀾含みの臨時国会で・・・ 民主党は試されている (2007年10月号「中央公論」)◆

仮にアフガンでのテロ撲滅活動から日本が脱退すれば、
日米同盟に影響することはもちろん、世界中から非難されることになる。
党内の議論はこれからだが、真剣に議論しなければわが党は有権者から見捨てられる。

テロとの戦いに加わるべきだ
七月末の参院選で民主党が大勝を飾ったことにより、参院では与野党の勢力が逆転した。このため、安倍晋三氏が首相に就任して以来、度重なった強行採決の手法を踏襲することに対して一定の歯止めがかかることは間違いない。こうした状況下で開かれる今秋の臨時国会では、「テロ対策特別措置法」改正案が最大の焦点になるとして、国内外から注目を集めている。

テロ特措法とは、インド洋における海上自衛隊による多国籍軍艦船への洋上給油などを可能にする時限法だ。二〇〇一年に制定され、これまで与党の強行採決により、計三回延長されてきた。そして、今年十一月一日に時限が切れることから、今国会の焦点の一つになっている。期限内に改正法が成立しなければ派遣の法的根拠が失われ、自衛隊は撤退を余儀なくされる場合も考えられるのだ。

私は、日本はアフガニスタンにおけるテロとの戦いに加わる必要があると一貫して主張している。

周知のとおりこの法律は、二〇〇一年九月十一日に米国で同時多発テロ事件が発生したことを契機に成立の機運が高まった。三〇〇〇人もの犠牲者を出した事件であり、日本人も二四人もの方が亡くなったこともあり、日本も自衛隊を派遣しなければならないという世論も醸成された。最終的に与野党合意には至らなかったものの結果的に成立したのだ。

同時多発テロ事件の後、米国のブッシュ大統領は、国連憲章五一条に認められた個別的自衛権に基づき、国際テロ組織アル・カイダや彼らを支援するアフガンのタリバン政権に対する報復攻撃を開始した。

この報復攻撃の後、米国の働きかけを受けた国連安全保障理事会は、「国際平和と安全に対する脅威に対し、あらゆる手段を用いて戦う」「個別的または集団的自衛の権利を認める」とする、決議1368号を全会一致で採択したという経緯がある。

そして、この国連安保理決議に呼応するように、欧州連合( EU )、北大西洋条約機構( NATO )、米州機構( OAS )などが相次いで米国の軍事的支援要請に応じて、集団的自衛権を発動することを決めた。

このため、現在、世界七五カ国がアフガンにおけるテロとの戦いに参加している。イラク戦争には一貫して反対しているドイツやフランスまでもが加わり、今も積極的に活動を展開していることは特筆に価する。要するに、米国の自衛権の発動に対して国際社会は国連決議を含めて認める形で参加しているということだ。

国際社会がテロを撲滅しようと努力しているときに、その戦いから日本が外れた場合、国益に反することは間違いない。だから、私はこの戦いに参加することが必要だと考えている。

「弱腰外交」ではない
もし仮に、日本だけがこの戦いから脱退すれば、世界からは間違いなく非難される。日米同盟にも多大なマイナスの影響があることは間違いない。
一方小泉純一郎前総理の政権下で米国の求めに応じて市場開放が進んだせいか、今、日本国内で米国に対して「毅然とした姿勢で臨むべきだ」とする空気が高まっている。私の主張に対し、「米国の要請に従うのは弱腰だ」という意見も少なくない。しかし、この問題に関して言えば、コトはそう簡単ではない。

日本と米国の関係は複雑だ。好むと好まざるとにかかわらず、日本の安全保障政策は日米同盟の中に組み込まれている。日本は軍事情報収集一つをとっても自国だけで満足に行うことができない。武器輸出三原則が厳格に適用されているため、日本の製造する武器は高価すぎ、結果として米国から武器を買っているという現実もある。日本を取り巻く国々がこれだけミサイルを配備し、高性能な戦闘機を保有しているというのに、日本は「盾」の能力しかない。現在の日本の¨実力¨を考えれば、有事には、「矛」を持つ米国に頼らざるをえないという厳しい現実を直視しなくてはならない。

その上、日本は北朝鮮という厄介な問題も抱えている。北朝鮮が一目も二目も置いているのは米国だ。六者協議の中での発言力も極めて強い。こうしたことを勘案した上で、日本は米国を通常の同盟国以上に重視しなければならないという事情がある。

政治家は、あらゆる事情を総合的に考え、舵取りをしなければならないのだ。

説明責任を果たさない政府
テロ特措法に基づくこの活動は、二〇〇三年、〇五年、〇六年の三回にわたって延長された。そして、民主党は三回とも延長に反対した。

間違ってもらって困るのは、私は「活動に参加するべきだ」と主張しているが、「延長すべきだ」と述べたことはないということだ。

与野党で合意はできなかったが、民主党は〇一年の段階で、米軍などの軍事行動に自衛隊の後方支援を可能にする新法成立の意義については認めていた。この法律を成立させるに際して、自衛隊の派遣期間などを定める基本計画については民主党も賛成していることを思い起こしてほしい。

その上で、その後の特措法の延長について、わが党は三回にわたって反対した。理由は、現地の活動内容の効果がよく分からないからだ。要するに、政府の情報公開が不徹底だからなのだ。

現地の活動の中で給油量が年々、減少しているだけではなく、船舶の立ち入り検査の件数も、無線の照会件数も減少していることを知っているだろうか。民主党が減少した理由を問い質すと、政府は、「洋上給油活動を含めて、テロ防止活動が奏功している。抑止効果が生まれているので立ち入り検査も減少し、押収物も減っている」と答弁してきた。

それではなぜ、アフガンの国内の治安は一向に改善しないのか。今年七月には、旧支配勢力タリバンが韓国人約二〇人を拉致・拘束し、うち二人が殺害されて世界を震撼させた。治安は改善されないどころか、より悪化しているのではないか。

今の活動の方向性は正しいのかどうか、政府はその挙証責任、説明責任を果たすべきだが、全く果たしていないのだ。これでは賛成できるはずがない。本当に大切なことは、テロリストが排除され、アフガンが秩序を取り戻して安定することなのだ。今の活動を続けることで、その結果が得られるのかどうか。この冷静な検証は必要不可欠だといえる。

次期臨時国会で政府与党がこうした課題に答えることなく、従来通りの活動の延長を認めろ・・・と単純に求めるのだとしたら、これは、到底、承服できるものではない。

ボールは政府の手の中にある。

小沢代表の真意
小沢一郎民主党代表は参院選直後から、テロ特措法を延長するため改正法について否定的なコメントを出し続け、注目を集めている。臨時国会の召集を受けた記者会見では、「アフガン戦争はブッシュ米大統領が国連や国際社会と関係なく、『自衛戦争だ』と言って始めた国連安保理決議に基づく活動とは全く性格が違う」とも述べている。このため、各種報道は、民主党が与党との修正協議には応じない意向を示したとして伝えている。

私は立ち場によっては、小沢代表の見解は正しいと考えている。確かに国連が認めているのは、「米国の自衛権の発動」であり、米国自身が米国のために戦っているという見方もできるからだ。前述した通り、厳密には、米国は国連決議に基づいて行動したのではない。米国の攻撃を国連が追認しているのだから。ただ、だからといって小沢代表は、活動を全否定するつもりはないのではないか。

岡田克也氏が代表だった頃、小沢代表と自衛隊の海外派遣について議論したことがある。小沢代表は、「とかく、日本では自衛隊の海外派遣について憲法九条に照らし合わせて論じられる。が、国際貢献活動における自衛隊の派遣は九条に基づくものではない」と言う見解を示していた。その上、国連決議さえあれば、現在の国連平和維持活動( PKO )だけにとどめず、武力行使を含めて検討する必要がある・・・とも発言したと記憶している。国際貢献については私よりも小沢代表のほうが積極的なご意見を持っておられるはずだ。

八月上旬、小沢代表は党本部でトーマス・シーファー駐日米大使とテロ特措法の延長問題をめぐって会談した。この際、活動の継続を求めるシーファー大使に対し、小沢代表は「国連決議があれば参加したい」と応じている。国連決議さえあれば、国際貢献には参加したいという姿勢は以前と変わらない。ぶれてはいないのだ。

また、民主党が延長に否定的であることから、シーファー大使から「(米軍に関する)機密情報も提供する準備がある」との譲歩を引き出すことにも成功している。これは非常に意義深いことであり、テロ特措法をめぐる事態を好転させるきっかけにしうると私は見ている。

話が前後するが、一部の報道機関が最初にシーファー大使から会談の求めがあった際に、小沢代表が断ったと伝えた。これは¨誤報¨だ。後から知ったことだが、実は小沢代表はシーファー大使からの申し入れを知らなかった。小沢代表に報告がいく前に、たまたま、日程が会わないという理由で事務局が断っていただけだ。この報道のミスリードによって、その後の会談も、小沢代表が米国の要請を頑なに拒否している・・・という印象をのこすほうどうになっていったのではないか。

実は、会談の後、米大使館のスタッフから私に電話があった。「シーファー大使は大変に喜んでいた。これからも、定期的に小沢と話したい」と言われたのだ。有権者の目にどう映ったかはともかく、米国人はああいった率直なやり取りを好むのかもしれない。

また、会談の前に小沢代表と会ったのだが、小沢代表は「今までも米国とは付き合ってきた。今後も付き合っていきたい」と言っていた。小沢代表は米国を軽視などしていない。自民党の幹事長まで務めた人であり、米国に独自のパイプを持っているため、自信を持って行動しているのではないか。私はそんなふうに考えている。

歴史が教える「強硬外交の罠」
前述したが、私の外交姿勢について、「弱腰」という批判は当たらないと思う。この機会なので、改めて私の政治的な姿勢を確認しておきたい。それには、歴史をひもとく必要もある。

国力が弱った時、いつの時代も決まって歪んだ「強硬外交」を求める世論が高まる傾向があるものだ。

たとえば、一九〇五年に日露講和条約(ポーツマス条約)に反対する民衆が起した暴動事件「日比谷焼き討ち事件」を思い起こしてほしい。日露戦争で一応の¨戦勝国¨となった日本では、多大の賠償金を求める論調が高まった。しかし、講和条約にはロシアによる賠償金支払い義務は盛り込まれていない。強国ロシアを相手に、当時の日本には戦い続ける実力などなかった。このため、日本全権だった小村寿太郎はロシアとの講和を最優先する道を選んだのだ。

しかし、対外硬派の団体はこれに激怒した。時の野党勢力を中心とした集会が日比谷で開かれたのをきっかけに、民衆は暴徒と化して官邸を襲い、警察署や交番を焼き払った。全国各地でも、「ロシアとの戦いを続行せよ」という現実離れした要望が声高に叫ばれた。この暴動の一因には、野党勢力の煽動があったとされている。また、大正から昭和初期にかけての民政党と政友会の争いという教訓もある。一九二四年から断続的に外相を務めた幣原喜重郎は、ワシントン体制のもと、米、英、と協調して中国革命に対して内政不干渉の立場を貫く「協調外交路線」を選択した。対する野党・政友会はこれを「軟弱外交」として激しく批判。その後の金融恐慌などもあり、政友会は政権奪取にこぎつけた。その後の強硬外交の行方は、説明するまでもないだろう。

外交を政争の具にしたり、有権者の支持を得られるからと言っていたずらに外国に対して強い姿勢に出るなどというパフォーマンスは、政治家は厳に慎まなければならない。私自身はそう肝に銘じている。

民主党は「お試し期間」中
テロ特措法については、今後、党内の様々な部門会議、調査会議が開かれ、徹底的に議論したうえで、党の方針を決めることになるだろう。民主党は党代表が主張することで、何もかも決定されるというような息苦しい政党ではない。もちろん、党代表の意向は重く、その影響力は大きいが、自民党の小泉前総理のように、何が何でも言うことをきかせるという体質にはないからだ。

わが党には、さまざまな意見を持つ議員がいる。報道などに指摘されるように、党内の意見が一致しない場合も少なくはない。しかし、だからといって、徹底的な議論を逃げていたら政権政党として脱皮することはできない。そして、党内でまとまった方針については、造反者を出さずに一致して行動していくことが必要だ。どちらに決まっても造反者が出る・・・と言われるようなありようは、そろそろ卒業しなければならない。

ちなみに民主党が今夏の参院選で大勝をおさめた要因は、¨複合的な敵失¨にある。具体的には社会保険庁のずさんな対応による年金不振。そして、地方の疲弊によるものだ。民主党を積極的に選択したというものではないだろう。

選挙後、有権者の一人から「今の民主党は¨お試し期間¨だ」と言われたことがある。言い得て妙だ。我々は今回のテロ特措法を試金石として、年金問題、政治と金の問題などあらゆる課題に対し、どういった対応を取るか、その一挙一動を国民から見られている。「こんな行動を取っているようでは、民主党には任せられない」と感じさせるのか、「民主党には政権を取る実務能力がある」と思われるのか。これからのすべての対応で判断されるのだ。

どういった国会対応になるか、どんな局面に出くわすのか。現時点では見えないが、すべての行動が採点され、次期総選挙でそれが跳ね返ってくることを考えた上で、責任持った行動をしていかなければならない。