プロフィール記事・論文活動写真館国政報告会行事のお知らせ議事録リンク開票結果直球勝負!質問主意書

◆「日本のミサイル防衛をどう考えるか−欠かせない戦略的取り組み−」(政策研究フォーラム刊『改革者』2006年10月)◆

北朝鮮のミサイル発射以降、ミサイル防衛は必要と国民も認識しつつある。しかし展開には莫大な予算と外交的配慮を要する。

ミサイル防衛の現状

去る七月五日、アメリカの独立記念日(アメリカ時間では四日)に合わせたかのように、北朝鮮が七発の弾道ミサイルを発射した。三発目はテポドン2と見られており、日米両国の防衛当局は発射後すぐ墜落するか爆発するなどして失敗したと結論付けた。それ以外はノドン、及びスカッドミサイルで、日本海のロシア領寄りに着弾した。テポドン2以外は発射に成功したと見られ、何よりもノドンは移動可能なトレーラーから発射できることが証明され、今後、より高度な監視と対応が求められることになる。

北朝鮮が数年前、日本本土を越えて三陸沖に着弾するミサイルを発射して以来、日本の世論も「ミサイル防衛は必要である」との意見に傾き、平成十一年からはアメリカとの共同研究に参加し今年の六月には共同開発を開始する旨の付属書を締結している。

日本が配備しようとしているミサイル防衛システムは二つある。一つはSM−3というイージス艦から発射されるミサイルで飛来する弾道ミサイルをミッドコース(大気圏外)で迎撃するシステムである。もう一つはパトリオットPAC−3で、飛来する弾道ミサイルをターミナル(最終段階)で迎撃するシステムである。

まずSM−3の現状を確認したい。現在、海上自衛隊は四隻のイージス艦を保有しているが、平成十六年度から一隻ずつ改装に取りかかり(改装には約三年かかる)、平成十九年度には初めの一隻である佐世保所属の「こんごう」の実戦配備が可能になる。次に二〇年度には同じく佐世保所属の「ちょうかい」、二十一年度には舞鶴所属の「みょうこう」、そして二十二年度には横須賀所属の「きりしま」が実戦配備につく手はずになっている。一隻のイージス艦には垂直発射型のミサイルが九〇基搭載可能であるが、SM−3ミサイルは対潜ミサイルやSM−2ミサイルと混載されることになる。ちなみに、イージスBMD(弾道ミサイル防衛)システムは、二〜三隻のイージス艦でわが国全域を防護することが可能になる。

次にパトリオットPAC−3についてだが、当面、入間(埼玉)・浜松(静岡)・岐阜・春日(福岡)の四ヶ所への配備が予定されている。元々パトリオットは、日本に飛来する戦闘機の脅威に対応するために地対空誘導弾システムとして開発されたもので、日本では平成元年に導入された。湾岸戦争後に開発されたPAC−2改良型は、限定的ではあるが弾道ミサイルに対処する能力を保有しており、わが国には平成八年に導入された。しかし、PAC−2改良型では北朝鮮が配備するミサイル(ノドン型で二〇〇基以上と言われる)には対応できず、今般導入されるPAC−3が万が一の事態に備えることになろう。

パトリオットPAC−3は一個高射隊で半径数十kmの範囲を防衛できる。ちなみに四個高射隊で一個の高射群が構成されている。一個高射隊にはランチャーとよばれる発射機が五基あるが、内二基をBMD対応化して、一部にPAC−3ミサイルを搭載する。PAC−3システムもイージス艦と同様、平成十六年から一個高射群のPAC−3化に取りかかり、十九年度に実戦配備が可能になる予定だったが、先般の北朝鮮によるミサイル発射という事態を受け、一個高射隊のみ十八年度に前倒しした配備を目指している(残り三高射隊は十九年度配備予定)。残り三高射群については平成二十年度まで順次PAC−3化され、実戦配備されることになる。

以上がSM−3システムとPAC−3システムの現状と配備予定だが、ミサイルのみでは第三国から飛来する弾道ミサイルに対応できない。ミサイル発射を探知し、その軌跡を追尾しなければならない。探知について決定的な役割を果たすのは高高度の早期警戒静止衛星であるが、これはアメリカしか保有しておらず一義的な情報は同盟国であるアメリカに頼ることになる。それを補完する探知能力として、EPS−XXと呼ばれるセンサーがあるが、下甑島(しもこしきしま・鹿児島・平成二十年度末までに配備完了予定。以下同様)・佐渡(新潟・二十一年度)・大奏(青森・二十二年度)・与座岳(沖縄・二十三年度)の四レーダーサイドに配備されることになっている。また追尾するセンサーはEPS−3改と呼ばれ、現在三レーダーサイト(背振山・佐賀、笠取山・三重、加茂・秋田)で改修が行われており、平成二十年度には終了する見込みである。また、さらに四レーダーサイト(経ヶ岬・京都、輪島・石川、大滝根山・福島、当別・北海道)でも平成十九年度に同様の改修に着手し、平成二十一年度には改良型が配備されることになる。同時に、防空のための自動警戒管理システムであるBADGE(バッジ)システムや通信網も能力向上のための改修等が行われており、これらもミサイル防衛システムの配備と合わせて平成二十一年度までには終了する予定である。

今まで確認してきたのは日本の取組みであるが、同盟国であるアメリカも、自国の基地を日本に置く以上、日本においての独自のミサイル防衛システムを整備しつつある。まず、弾道ミサイルが飛来する可能性が高い空域を監視し、飛来するミサイルを詳細に把握できると言われるXバンド・レーダーが今年六月に青森県車力(しゃりき)の航空自衛隊基地に配備された。現在は暫定運用の段階であるが、十二月からは本格運用される予定である。また、SM−3ミサイルを搭載したイージス艦「シャイロー」が八月二十九日、横須賀に配備された。アメリカは現時点において三隻のSM−3ミサイルを搭載したイージス艦を保有しているが、残り二隻はハワイに配備されている。さらに、PAC−3の部隊(四個中隊)がテキサス州フォート・プリスから嘉手納に移駐することになっており、要員約六〇〇名とその家族約九〇〇名、計約一五〇〇が移転し、十二月までに一部運用が開始される予定である。

ミサイル防衛の課題

以上日米両国の日本におけるBMDシステムの現状と今後の見通しについて事実関係をフォローしてきた。これからは、BMDシステムに関わる様々な課題について考えてみたい。

まずは、費用対効果の問題である。(一)で確認したように、日本の弾道ミサイル防衛にはイージス艦発射型のSM−3と地上発射型のパトリオットPAC−3の二種類があるが、イージス艦四隻のSM−3化改修には約二〇〇〇億円、PAC−3ミサイルの取得を含むパトリオットシステムの能力向上には約三〇〇〇億円もの費用がかかる。さらにセンサーや指揮統制・通信システムの整備に約一五〇〇億円を要し、その他、維持整備や日米共同技術研究開発費を含めれば、トータルで八〇〇〇億円から一兆円の費用がかかると見込まれている。年間の防衛費は約四兆八〇〇〇億円強であり、正面装備経費はその内の二五〜三〇%に過ぎない。約四四%が人件・糧食費、残りは米軍への思いやり予算、基地周辺対策費、訓練や装備の維持・改修コストに使われる。

自民党政権の野放図な財政運営により、国・地方合わせて一〇〇〇兆円を超える財政赤字を日本は抱えてしまった。そのため、防衛費を含め厳しいコスト削減を余儀なくされている。具体的には訓練費も削減の対象になり、精強さを維持することも並大抵ではない。さらに、米軍再編(トランスフォーメーション)による基地再編や普天間飛行場の辺野古への移設、第七艦隊の空母「キティホーク」艦載機の厚木から岩国への移転など、アメリカからの言い値は言語道断としても、日本も応分の負担は覚悟しなければならない。また、日本に想定される脅威はミサイルだけではない。日本の領土・領海・領空・海洋権益を守り、実効支配するための防衛力を様々な観点を考慮して常に整備しなければならないし、テロ対策も重要な施策だ。そのような状況にあって、数年間にわたる負担だといっても、八〇〇〇億から一兆円というのは極めて大きな金額だ。

費用対効果にも関わる観点だが、パトリオットPAC−3は極めて限定された能力だと認識すべきである。事前情報があったとしても機動性に欠け、十分な配備をしてもせいぜい半径数十kmをカバーできる程度だ。基地や重要施設などのピンポイントでの防護は出来たとしても、例えば首都圏全体をカバーすることはとても出来ない。弾頭に核兵器などの大量破壊兵器が装着されれば被害は恐ろしく甚大なものになる。それを考えるとSM−3により重点を置いたBMD体制の整備を考えるとともに、弾道ミサイルが発射された直後の速度が極めて遅いブースト段階で撃破が可能な、アメリカで現在、開発が行われているようなエアボーン・レーザーなどの開発・実用化にも日本も協力すべきである。ただ、ブースト段階の、どこに飛んでいくか分からないミサイルを日本が撃破するとなれば、集団的自衛権を行使することになる。将来的には憲法解釈の変更か憲法改正によって、この点を整理することが求められよう。

(一)でも少し触れたが、第三国からのミサイル発射を感知できるのは高高度の早期警戒静止衛星であり、この衛星を保有できるのは現段階においてアメリカだけだ。アメリカの保有する衛星は軍事目的だけでも一〇〇基以上と言われているが、他方、日本は軍事に限らない多目的衛星をようやく三基(来年には四基体制になる予定)持つのみで、分解能力も、アメリカと比較すると著しく劣る。すべて自国で保有することは、現実的な選択枝ではない。同盟国であるアメリカの能力・技術も活用しながら全体として日本の監視体制が確保されれば良い。ただ多くの情報源を、同盟国とは言え、他国に依存することは主体的な外交・安全保障政策を遂行する上で大きな足かせとなる。卑近な例を挙げれば、日本はアメリカのイラク戦争に賛成し、協力したわけだが、アメリカによる「イラクは大量破壊兵器を保有している」という情報が日本の判断に大きく影響したことは間違いない。結果、イラクからは大量破壊兵器は見つからなかったし、アメリカ自身大量破壊兵器に関する情報は誤りであったと認めている(日本政府は判断は間違っていなかったと強弁しているが)。従って、自らの情報収集能力を向上させ、それに基づいて、ある程度の政策判断が独自で行えるような体制整備は必要である。例えば北朝鮮の動向をリアルタイムでフォローするためにも、衛星の基数の増加と、分解・分析能力の向上は必要だ。そのためには国会でかつて行われた「宇宙の平和利用決議」の見直しも不可避であると考える。ただ、機微に触れるテーマであり、国民を巻き込んだ真摯な議論が求められよう。

同時に、人による情報収集能力(ヒューミント)も向上せねばならない。将来的にはアメリカのCIAやイギリスのMi6のような対外情報機関設置も必要だと考える。しかし当面は、現在の情報コミュニティーである外務省、警察、防衛庁、公安調査庁、海上保安庁、法務省、出入国管理局などの情報を統合して束ねる統合情報委員会(イギリスではJICと呼ばれる)のような組織を作り、各情報コミュニティーで保有する様々な情報を共有し、分析し、そして政策策定に資する仕組みを作り上げていかなければならない。

最後に、北朝鮮のミサイル発射に関連して、政府高官から敵基地攻撃能力に関する発言が相次いだが、そのことに関する私見を述べたい。私は国会議員になった当初から、敵基地能力検討の必要性について言及してきた。その理由は「戦略環境が変わった」の一語に尽きる。ソ連の脅威が存在していたとき、日米両国はソ連の空軍・海軍による日本に対する大規模着上陸侵攻を水際で阻止する、いわば「盾」の役割を日本が担い、第二弾、第三弾の侵攻阻止やロジスティック(兵站)の分断、破壊など「矛」の役割をアメリカが担うというものだ。しかし今や、ソ連が崩壊し、日本に大規模着上陸侵攻を試みる国は現時点では見受けられない。他方、テロやミサイルによる攻撃、島岬侵攻などの蓋然性は高まっている。つまり、「盾」と「矛」の役割分担はもはや成り立たないのであって、新たな役割分担を考えるべき時が来ているのである。仮に日本が「矛」の能力をもつにしても、アメリカとの緊密な連携と協力がなければ成り立たない話であり、確固とした日米同盟関係がその基盤になければならない。

同時に、北朝鮮がミサイルを発射した直後に、敵基地攻撃能力に言及することは外交的に極めてまずいと考える。敵基地攻撃能力の保持は、北朝鮮のみならず中国や韓国、ロシアをも刺激する話であり、今その議論を行うことは、六者協議の主要メンバーをみすみす北朝鮮側に推し戻すことに他ならない。平素から、敵基地攻撃能力保持について、同盟国であるアメリカのみならず、中国や韓国、ロシアに対しても明快な説明が求められることは論を俟たない。

具体的にはトマホークミサイルの配備や航空戦力の充実になろうが、まさに費用対効果の検証やアメリカとの議論、そして周辺国に対する外交的な配慮を含めて、戦略的に進めていかなければならない課題である。

以上