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前原誠司の「直球勝負」(51)
前原誠司の「直球勝負」(51)
新しい日露関係・専門家対話(2008)に参加して
平成20年3月18、19両日、モスクワで開かれた「新しい日露関係・専門家対話(2008)」に日本側のメンバーの一員として参加した。国会の開会中なので、国会の同意を得ての参加だったが、実に内容の濃い、充実した訪露となった。貴重な機会を頂いたすべての関係者、そしてお世話になったすべての方々に心から御礼を申し上げたい。
この専門家対話は、開催が20回を超える伝統ある日露チャンネルで、故・末次一郎先生が北方領土4島返還を実現することを主目的に、旧ソ連時代から尽力されて始まった。現在は元防衛大学校長の佐瀬昌盛先生、木村汎先生、袴田茂樹先生、そして末次一郎先生の遺志を継ぐ吹浦忠正氏が日本側の中心で、ロシア側はモロトフ元外相の孫であるニコノフ氏が総裁を務める「ロシアのための統一基金」がカウンターパートナーとなっている。毎年、日本とロシア交互で開催されており、私も以前、日本での会合には参加をしたことがある。
16日、成田発のアエロフロートでモスクワに飛んだ。出発が2時間遅れたが、珍しくはないらしい。おかげで、ホテルに着いての夕食は、10時過ぎからとなった。翌17日は、朝一番に赤の広場に出かける。ロシアの、権力の象徴であるクレムリンが聳え立つ。10時から、続々と面談がセットされていた。改革派でプーチン批判を行って選挙に落選したルシコフ・前国家院議員(下院)、デニソフ第一外務次官、プリマコフ元首相、コサチョフ国家院国際問題委員長などだ。18日から二日間にわたる会議が始まる。日本側からは木村、袴田、吹浦各氏に加えて国会議員は三原朝彦、小池百合子両代議士と私、そして大使経験者、学者、マスコミ関係者などが出席した。ロシア側も国家院議員、学者、企業家などが出席。初日は第1セッション「東アジアの発展の主な傾向(経済・エネルギー等)・・・戦略的プライオリティか地域的野心か?」、第2セッション「東アジアにおける軍事的政治的状況・・・地域内外における現実的・仮想的挑戦」、第3セッション「洞爺湖サミットにおけるグローバル・イシューズ・・・日本とロシアの立場」が、二日目には第4セッション「日露両国における指導部の交代と日露間パートナーシップの現状と展望」、第5セッション「日露の文化交流・・・現状と展望」で、活発な議論が繰り広げられた。19日の会議の後、クチコ・タス通信副社長や野党ヤブロコ党首のヤヴリンスキー氏と面談。帰国日である20日の午前中は、リハチョフ連邦院(上院)国際問題委員会副委員長(上院議員)とロシア共産党(野党)ナンバー2のメリニコフ副委員長兼国家院副議長と意見交換を行った。
ロシアは今、非常に元気だ。石油と天然ガスの産出国であり、それらの価格の値上がりにより国家・企業の収入が増大している。1990年代のソ連邦崩壊による経済的な混乱から立ち直り、大国としての自信を完全に取り戻しつつある。モスクワの街中には新しいベンツやBMWがいたる所で見られ、車を持つ人が増えて深刻な交通渋滞が日常化している。スーパーマーケットにも立ち寄ったが、品揃えは豊富。値段は日本とほとんど変わらない。今や世界で最も物価の高い都市はモスクワなのだ。むしろ、パンや肉類は日本よりも若干高いと感じた。インフレ率は10%台。この傾向が続くと、実質賃金が目減りして国民の不満が増大し、大きな社会問題になることは避けられないだろう。
以下、会議や面談で議論されたことをテーマごとに記しておきたい。
(1)北方領土について
私も含め日本側の参加者からは、北方4島は日本固有の領土であり、4島の帰属を両国間で定めた上で平和条約を締結するとした1993年の東京宣言に基づいて4島の帰属について議論し、早期に4島の日本への返還を行って両国間の懸案を決着させるべきだと主張した。ロシア側の、この問題に対する反応は一様に冷たく、突き放したものだった。「4島は第2次世界大戦の結果、旧ソ連の領土となり、日本も放棄をしたはずだ。しかしロシア側の「好意」で、平和条約を締結した暁には2島を『引き渡す』(返還ではない)と日ソ共同宣言では約束をしており、これも驚くほどの譲歩だ。4島返還などありえない」と、誰もが憎らしげに返してくる。経済的にロシアは成長していることもあり、日本の経済的な支援がテコとして効力を失っていることを痛切に感じた。領土問題解決のタイミングとしては、今は適当ではないようだ。常にこの問題は「冒頭に」提起をしながら、日本は決して諦めていないことを伝え続けることが重要だと感じた。
(2)双頭(タンデム)政権について
先般の大統領選挙で、プーチンの後継指名を受けたメドベージェフが約7割という圧倒的な得票率を得て当選した。5月からはメドベージェフが大統領に、大統領のプーチンが首相に就任するという双頭(タンデム)体制がスタートする。専らの関心は、この体制がうまくいくのかという点に集中した。「プーチンは再び大統領に戻るために、言うことを聞くメドベージェフを一時的に後釜に据えた」とか、「今は傀儡のメドベージェフだが大統領権限が絶大なだけに、徐々にプーチンのコントロールが効かなくなり、深刻な確執が生まれる」との見解もあるが、ロシア側の発言は概ね、「うまくいくだろう」と楽観的なものが多かった。
ロシアの現実として、軍・警察・KGBといった「シラビキ」と呼ばれる層が社会を支配しており、メドベージェフは、それらに足場を持っていない。「シラビキ」を抑えられるのはプーチンしかいないのだ。従って、メドベージェフは大統領になってからも、プーチンに当面は依存せざるをえない。他方、憲法を改正してでもプーチン3選が圧倒的な世論であったにもかかわらず、プーチンは頑なに憲法改正を拒絶し、憲法の規定どおり大統領の座を退いた。本当に権力にしがみつき続けたいのであれば、他にも方法はあったのだ。それらを総合的に考えると、プーチンはかなり真剣にメドベージェフに政権移譲を考えており、「シラビキ」対策を含めて当面は自分が首相として支えなければならない、或いは内政の諸課題を首相として責任を持って解決していきたいと考えているのではないだろうか。ただ、この仮説が妥当だとしても、プーチンの思惑通りにことが進むかどうかは、また別の話だ。うまくいかなければ、社会の安定のために大統領に返り咲く場面もあるかもしれない。これからの1〜2年は注意深くメドベージェフ政権の運営を注視する必要がある。
(3)中露関係について
ロシア側の誰もが、通り一遍に「中露関係は良好だ」、「全く問題はない」と発言をしていた。しかし、少し突っ込んで、オフレコの話し合いになると、様々な問題点が提起をされた。「中国のコピー商品が出回って困っている」、「中国人の不法滞在が多く、密輸にも関わっている」「中国企業に発電所建設などの発注が集中し、地元企業が受注できない」などだ。
ただ、このような問題によって、決定的に中露関係が悪くなる環境には全くない。特に、これからロシアが開発を戦略的に進めていこうとしている極東シベリアには、ロシア人は約3000万人しかいない。他方、ロシアと国境を接する黒龍江省だけで約1億5000万人の人口があるという。中国のマンパワーを借りなければ、シベリアにおける天然資源の開発は制約されたものになる。また、ロシアにとって中国は、武器やエネルギーの有り難い市場でもある。お互いが経済成長を続けていくには、よき隣人であることが双方の利益になる。現に、中露両国は国境にもはや軍隊を配備していない。当面は、良好な中露関係は続き、日本が一方の国をけん制するのに、もう一方の国を外交カードとしてうまく使える環境にはないと肝に銘ずるべきだ。ただ、プリマコフ元首相の「中国のバスケットに卵をすべて入れないことが望ましい」という発言は、中国による過度の影響力に対する警戒感の表れでもある。
(4)これからの日露関係について
私から北方領土問題のほかに、幾つかの問題点と課題を提起した。一つにはロシア製兵器の中国への積極的な輸出に対する懸念だ。ロシア側が、しばしば日米安保、最近では特にミサイル防衛に対する懸念を口にするが、私に言わせれば、ロシアからの中国への武器輸出が日本の警戒感を強め、ひいては日米防衛協力の強化にもつながる。言ってみれば、ロシア側の主張は自らのマッチポンプでしかないのだ。2点目は、ロシアにおける地球温暖化ガス排出権の市場整備だ。ロシアはエネルギー効率が非常に悪く、日本の約18分の1という推計もある。日本が環境・省エネ分野でロシアと協力できる余地は極めて大きい。同時に、ロシアは排出権取引の巨大な市場となりうるが、現段階において、このような観点はロシア政府には欠落している。京都議定書が発効したのはロシアの批准があってこそであり、ポスト京都議定書も含めて日露間の連携・協力が求められる。3点目は、ロシアが運用するSWF(ソブリン・ウェルス・ファンド=政府系ファンド)の運用指針と透明性に関してだ。石油と天然ガスといった天然資源の価格高騰、それに伴う経済成長を背景として、ロシアも潤沢な資金をSWFとして運用している。SWFが、どのようの考え方に基づいて運用されるのかは極めて重要なポイントとなる。他国企業の買収が、当該国の安全保障に関わる場合は大いにありうるからだ。ロシアが民主主義、自由主義国家でないだけに、運用指針の策定と徹底した情報公開が求められる。
他に、サハリン2における傍若無人なガスプロムの横槍、モスクワを起点とする新幹線整備計画、2012年にウラジオストックで行われるAPECのインフラ整備、まだまだ少ない日露間の観光交流拡大(日本からロシアへは年間約6万人、ロシアから日本へは約4万人)など、日露間の懸案、協力の可能性は少なくない。日本から北方領土の問題を筆頭に言うべきことはしっかり主張しつつ、協力できる分野は積極的に取組み、両国関係を強化することが日本の国益にも叶うと考える。今回頂いた機会を生かして、日ロ関係強化のために国会議員として引き続き関与していきたい。
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