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前原誠司の『直球勝負!』

前原誠司の「直球勝負」(26)

〜 北朝鮮の核問題を解決するために 〜

去る2月13日、中国の北京において開かれていた、北朝鮮の核問題に関する6者協議(日本・アメリカ・中国=議長国・韓国・ロシア・北朝鮮)が一定の合意に達した。合意の概要は以下の通りだ。60日以内に実施する「初期段階の措置(アーリーハーベスト)」として、北朝鮮は寧辺(ヨンビョン)の核施設(再処理施設を含む)を最終的に放棄することを目的として活動停止して、封印する。すべての必要な監視及び検証を行うために、IAEA(国際原子力機構)の要員の復帰を求める。すべての核計画(抽出プルトニウムを含む)の一覧表について5者と協議する。6者協議の下に日朝、米朝など5つの作業部会を作り、国交正常化や朝鮮半島の非核化、北朝鮮に対する支援などについて同時並行で議論を進める。北朝鮮が合意を履行する見返りとして、まず重油5万トンを残りの5カ国が供与し、北朝鮮の履行状況を勘案してさらに95万トンを供与することとしている。ただ、日本は拉致問題の進展がない限り、重油などの経済支援に参加しないと表明し、米・韓・中・露は理解を示したとされている。

北朝鮮は、核問題に関して国際社会との合意を反故にしてきた。1994年にはアメリカとの間で米朝枠組み合意に達し、核開発の凍結の見返りとして重油の提供や軽水炉型の原子力発電所の供与を受けるとして、KEDO(朝鮮半島エネルギー開発機構)が日米韓などの参加によって作られ、北朝鮮は重油の提供を受けると共に、軽水炉型の原子力発電所の建設が北朝鮮国内で進められていた。しかし、北朝鮮は秘密裏に核開発を続けていたことが明らかになり、北朝鮮もこれを認めて、KEDOによる支援は頓挫したままになっている。2002年には日本と北朝鮮の間で日朝平壌宣言が交わされ、北朝鮮が今まで結んできた国際約束、例えばNPT(核不拡散条約)や米朝枠組み合意の遵守が確認されたが、核開発は続けられ、NPTからの脱退は宣言していないものの、米朝枠組み合意も含めて、守られているとは到底言えない状態が続いている。2005年9月には6者協議は合意に達したが、核の凍結と支援の開始をどちらが先に行うかですぐさま反目し、合意内容が履行されない状況が1年半余り続いている。そして、2006年7月のミサイル発射実験、10月の核実験と、瀬戸際外交をどんどんエスカレートさせていったのである。今年の2月末、私はクラウチ・米国家安全保障会議次席補佐官と東京で懇談したが、彼はアメリカのことわざを引用して、このように語った。「人に1回騙された時、恥ずべきは騙した人だが、人に2回騙された時、恥ずべきは騙された人だ。今回の合意内容は、過去の経験が生かされている」と。

ではなぜ、北朝鮮は態度を軟化させたのだろうか。すべてを明らかにすることは出来ないが、アメリカの政府高官や、アメリカの政府高官だった人たちとの意見交換を踏まえて、私はこのように考える。アメリカが北朝鮮関係の口座を凍結した、マカオにおける金融制裁(バンコ・デルタ・アジア)が、相当効いているのではないだろうか。この制裁解除を目指して、北朝鮮は態度を軟化させた、いや軟化させたように見せかけているのだと考える。クラウチ氏が言うように、我々は過ちを繰り返してはいけない。北朝鮮の出方を慎重に見極める必要がある。そして、核開発停止に向けて、北朝鮮が具体的な一歩を踏み出さない限り、彼らに見返りを与えては決してならない。

そこで、2点について私見を申し上げたい。一点目は、北朝鮮は核保有国として居続けようとするだろうという点だ。金正日が核を放棄するとは全く考えられない。核を放棄すれば、瀬戸際外交の「道具」がなくなるだけでなく、体制崩壊の圧力を他国からかけられたとき、抗する「脅し」を失うことになる。しかも、国内、特に軍部内で「自国も核保有国になった。これでアメリカと名実共に肩を並べることが出来た」と喧伝している。現に、6者協議の合意直後の朝鮮中央放送は、「核開発の『臨時中止』の見返りとして、我々に重油100万トンが供与される」と報じている。「停止」や「封印」ではない。「臨時中止」だと国内では説明しているのだ。我々は、北朝鮮が核を放棄するなどという幻想を持ってはいけない。

2点目は、その現状認識に立って、如何に日本や他国の核攻撃から身を守るかという切実な安全保障上の問題だ。私は2月13日の予算委員会で、安倍総理に対して「北朝鮮が核を使うとすれば、もっとも危険に晒される国はどこか」という問いかけを行った。言うまでもなく、私は日本だと考える。同胞の韓国ではなく、まして、殺生与奪を握られている中国ではなく、ミサイルが届かず、仮に攻撃すれば完膚なきまでにやられ返すアメリカではない。日本全土を射程に置くノドンミサイルが200基以上配備され、弾頭に搭載できるかどうかは判らないが、核を保有してしまった北朝鮮。まさか撃ってこないだろうと考えるべきではない。我々の言う合理的な判断をする国だと思い込むには余りにも危険だ。思い返してもらいたい。戦前の日本が、我々が今考える合理的な判断をしただろうか。追い詰められた面もあったが、今、客観的に考えれば勝つことの出来ない戦争に突入したのは、他ならぬ我が国ではなかったのか。しかも、軍部と朝鮮労働党の激しい権力闘争が行われている北朝鮮で、軍部の暴発はないと誰が言い切れるだろうか。最悪の事態を想定して、ことに当たるべきなのだ。

では、北朝鮮の核問題を解決するためには、どのような方法がありうるか。サージカル・ストライク(外科的な攻撃)をアメリカが北朝鮮に行う可能性は、現段階ではゼロに等しい。アメリカはイラク・アフガニスタン、そしてイランで手一杯であり、朝鮮半島に戦力を投入するインセンティブも意思もない。関心があるとすれば、北朝鮮から核関連物質が流出しないことだ。そうであれば、外交的な手段しかない。国連の制裁決議1718を誠実に履行していくことも大切だ。しかし、192カ国の加盟国のうち、それを実行しているのはせいぜい50カ国程度であり、しかも制裁の中身は濃淡、様々だ。つまり、最も効果的な外交努力の場は6者協議であり、これを梃子に、北朝鮮の核開発を止めさせ、非核化に持ち込むためには、他の5カ国の連携と粘り強い交渉が何よりも必要となる。

今回、日本政府は拉致問題の進展がなければエネルギー支援に加わらないとの判断を下した。国民の多くが支持をしているようだが、私は間違った判断だと確信している。繰り返しになるが、北朝鮮の核の脅威をもっと感じなければならないのは日本だ。これを、外交交渉で封じなければ、一発の核ミサイルで何十万、何百万もの人命が奪われるだけではなく、日本経済は機能停止に陥る。日本が立ち直るには数十年の期間を要するだろう。「たった一発の核ミサイル」で、日本は終わると言っても過言ではない。外交を誤って、「失われた数十年」を作るべきではない。

他国は日本の立場を理解していると、安倍総理は強弁する。これは、外交を知らない人の言葉だ。同盟国であるアメリカでさえ、今は同意しているが、外交辞令と見るのが常識的だ。外交や安全保障に関わる日本やアメリカの知人で、私のスタンスを支持してくれる人は少なくない。仮に北朝鮮が合意内容を進めていったときに、エネルギー支援に参加しないといい続ける日本は、次第に発言力と存在感が失われていくだろう。そうなれば、日朝2国間で交渉する拉致問題にも悪影響が及ぶのだ。「拉致問題の解決は、日朝国交正常化の前提であり、その解決なくしては2国間のいかなる支援もありえない」という従来のスタンスを貫けばいいのだ。ことさらハードルをあげる必要はない。要は、大局的な国益の観点から、この問題は論じる必要性がある。

拉致被害者のご家族や、拉致問題の解決に熱心に取組まれる方々からは批判を頂戴している。「拉致被害者の前で腹を切れ」との脅迫状も届いた。子供さんやご家族を北朝鮮によって不当に拉致され続けている状態を鑑みれば、心中をお察しする。批判は甘んじて受けたい。ただ、私は先に述べたように、「たった一発の核ミサイル」が日本に落ちないことを、国会議員の最大のテーマとして、信念を持って取組んでいきたい。