前原誠司の「直球勝負」(18)
〜秩父鉄道を訪れて〜
12 月 2 日、埼玉県内を走る秩父鉄道を初めて訪れた。民主党埼玉県第12総支部長の本多平直・前衆議院議員が企画をされたイベントにゲストとして参加させてもらったのだが、私の大好きな蒸気機関車と、山々が美しく色付く初冬の秩父を満喫することができた。
元々このイベントの発端は、私が蒸気機関車ファンだということを、蒸気機関車を動態保存されている秩父鉄道の労働組合の方々がお知りになり、本多さんを通じてお誘いを頂いたことに始まった。数ヶ月前からそれぞれの日程を調整し、今年の蒸気機関車の運行が終わる一日前の 12 月 2 日に実現の運びとなった。
当日は抜けるような青空となった。参加された民主党埼玉県第 12 総支部の党員・サポーターの方々は総勢約 80 名、一日ご一緒させていただいたが本当に素晴らしい方々ばかりだった。政権交代を熱望される皆さんの思いを強く、感じることが出来た。小春日和の好天は、本多さんはじめ参加された皆さん、そして何よりも秩父鉄道の皆さんの精進の賜物である。
当日朝、JR熊谷駅にて本多さんと秩父鉄道労働組合の執行委員長・宮前剛志さんのお出迎えを受け、早速、車で運転区に向かう。運転区に着くと、昔懐かしい匂いが漂っているではないか。そう、蒸気機関車から吐き出される煙のにおいだ。罐に火が入ったC58363(C58という形式の363号機)は準備万端、蒸気というエネルギーが車体全体に漲っていた。多くの秩父鉄道労働組合の皆さんや会社の皆様にお出迎え頂き、大変恐縮すると共に、皆様のご好意に心からありがたいと感じた。何と、機関士の帽子と制服が用意されていた。機関士や機関助士の詰め所で制服に着替え、C58363の機関室に乗り込んだ。蒸気の音、石炭のにおい、カタカタと機械の動く音、そして何よりも燃え盛っている罐の熱気、私が蒸気機関車の虜になるのは、まさに「生きている」という実感を体中で受け取れるからだ。機関士席に乗せてもらって計器や運転方法を教えてもらう。機関助士の方からは罐への石炭のくべ方も教えてもらった。熊谷と三峰口の往復で約1トンの石炭をくべるという。大変な重労働だということを改めて教えられた。機関士も機関助士の方も元国鉄マン。蒸気機関車だけでなく電気機関車やディーゼル機関車、電車を運転されていたらしい。蒸気機関車の動態保存は、こういった経験者の経験・スキルが欠かせない。汽笛も鳴らせてもらう。汽笛を鳴らすのも簡単ではない。私の音と、機関士の方が鳴らす音は、同じ汽笛でも全く違う。咽ぶ(むせぶ)ように鳴らすにはコツだけではなく、蒸気機関車に対する長年の愛情が必要だと感じた。特別に許可を頂いて、列車の入れ換え作業と編成作業、そして熊谷駅までの回送を機関室に乗ったままで経験させてもらった。バネが無い分、走るとかなりの振動が直接伝わってくるものだ。
熊谷駅から長瀞駅までの往復を2両目の車両で党員・サポーターの皆さんと共に過ごさせてもらった。蒸気機関車に牽かれた列車に乗るのは小学生以来だから、約35年ぶりか。夏休みのある日、米子から伯備線で母の里である上石見まで乗ったのだが、途中トンネルが多く、客車に冷房がついてない頃だから窓の開け閉めが忙しかったのを、今でもよく覚えている。秩父鉄道の客車は冷暖房完備だから、その心配は要らない。沿線には数多くの鉄道ファンが集まり、C58に向けてシャッターを押している。今なお、蒸気機関車は多くの人たちから愛され、心をとらえて離さない実態を感ずることが出来た。
しかし、蒸気機関車を取り巻く情勢は決して楽観的なものではない。蒸気機関車を維持するのは、様々な面で常に困難が伴う。現に、九州で復活運転されていた8620型機関車「あそボーイ」は、この夏で運転を取りやめた。大正生まれの車体の、老朽化が激しいためである。このC58363は1972年まで東北地方で活動していて、最後は新庄機関区で廃車になった。その後、埼玉県内で静態保存されていたものを、約20年前に再び動かせるように整備された。蒸気機関車は一般的に走っていないので、取り替える部品はほとんど無い。他に静態保存されている蒸気機関車で使えるものを譲ってもらい、持ってこなければならない。静態保存されている機関車も、状態の良いものは数多くあるわけではない。雨曝しになり、機関車全体が錆付いて解体されたものも多い。このC58363も前回の全般検査の時、動輪の主軸にひびが入っており、他の地域で静態保存されている動輪を持ってきたという話を伺った。整備にも莫大なお金がかかる。動輪を丸く削る機械は全国でも北海道の苗穂機関区など、数えるほどしかない。整備する人も、機関士も機関助士も経験者が主であるため、高齢化が進んでいる。無煙化が完了したのは1975年末だから、60歳以上の方がほとんどだ。金もかかる。人も育てなければならない。いくら蒸気機関車に人気があっても、沿線で写真を撮る人が多いだけではだめで、列車に乗ってもらわなければ収入にならない。
他方、欧米では100年単位で蒸気機関車の動態保存が進められている。文化財として国や自治体が全面的にバックアップしているケースが多い。日本も、行政が文化財としてバックアップするか、非営利団体に対する寄付金控除を認めるなど、NGO/NPOが育つ環境を作らなければ、蒸気機関車のみならず、古き良きものを日本の文化財として残していくというのは至難だと改めて感じた。何とか、多くの国民の皆様の力をお借りし、蒸気機関車などの文化財を、国民の意思として残せる仕組み作りに尽力していきたいと思う。 |