前原誠司の「直球勝負」(12)
小泉政権5年半を考える
去る9月20日、小泉さんの後の自民党総裁に安倍晋三さんが選ばれた。26日に召集される臨時国会冒頭で首班指名が行われ、安倍総理が誕生する。日本国のリーダーになるわけだから、安倍さんには天命と思って是非頑張ってもらいたい。
「小泉劇場」が閉幕するにあたって、この5年半を省みることは、今後の日本のあり方を考える上で大変重要だと思う。物事の評価には賛否両論あり、どちらかに偏ることは公平ではないが、当初、期待した分、辛口の評価にならざるをえない。今でもはっきりと覚えている。小泉さんが総理になって始めて臨んだ国会の光景を。「自民党をぶっ壊す」「民間で出来ることは民間に。地方で出来ることは地方に」「聖域なき構造改革」など、まさに民主党が主張していたことを前面に掲げる総理が誕生した。現に、小泉さんの答弁に対しては野党側から拍手が起こり、自民党席がざわつき、白けるという場面は何度もあった。ただ、我々は一夜にして野党としての足場を失ったような気がした。私は元々、「野党だから批判だけしていればいい」という考えには与しない。戸惑ったが、大いに期待した。協力できることは、惜しみなく行おうとした。だから今、失望のほうが大きい。
確かに、不良債権処理は進んだ(ただこれも、アメリカの好景気と中国の特需等いう外需の後押しがあったからで、それがなければデフレスパイラルに落ち込んでいただろう)。単身、北朝鮮に乗り込み、拉致被害者の一部を連れて帰ってきた。また、アメリカのブッシュ大統領との首脳同士の関係を強化した。他にも評価できる面はあるかもしれない。
しかし、私がもっとも期待した「官から民へ」「中央から地方へ」という霞ヶ関の既得権打破につながる「真の改革」については極めて不十分で、むしろ看板倒れに終わったと言わざるをえない。例えば道路公団の民営化は、主としてパーキングエリアやサービスエリアの業務を民営化しただけで、中心の事業である道路建設は、たとえそれが採算の合わないものであろうが作り続けられることになった。出来上がった高速道路は借金とともに国が引き取ってくれる。「採算の合わない高速道路は、基本的には作らない」という民営化の基本理念は完全に骨抜きにされた。
大騒ぎになった郵政改革も、民営化という方針そのものは私も大賛成だが、結局は郵便貯金・簡易保険あわせて約330兆円という巨額の資金を分散させることなく巨大な金融機関を作ることになり、最長12年の移行期とあいまって、理念とはむしろ逆の「官業の肥大化」「民業の圧迫」をもたらす危険性が極めて高いものとなった。私は小泉さんが会長を務めていた「郵政民営化研究会」に所属をしていたが、その研究会の答申は「分割民営化」だった。他の民間金融機関と資金規模で互角の競争を促すためである。私は代表就任の挨拶で自民党本部を訪れたとき、このことを小泉さんに話をした。その時、小泉さんから帰ってきた言葉は「そんな小さなこと、国民には判りっこない」というものだった。国民が判るか判らないかは確かに大事なことだが、ことの本質ではない。ましてや規模の問題は「小さなこと」ではない。「官から民へ」の哲学が大切なのだが、中身よりもイメージを重視した小泉さんらしい言葉だと感じる。
地方分権は、行財政改革の本丸であると私は思っている。これは、私の政治家としての最大のテーマの一つでもある。「三位一体」改革なるものが喧伝され、あたかも地方分権に取り組んでいるようなイメージをもたれたが、分権の最終像を示さぬまま、一部の補助金や税源をいじっても全く意味がない。国の形を変える。税金の無駄遣いの構造を一掃する。行政サービスの質とスピードのアップを図る。霞ヶ関を一旦解体し、再編する。そして国として取り組む分野を限定することによって、国の責務をより明確にする。これらが地方分権を行う根本の理由だ。小泉さんの唱えた「三位一体」は、結局は地方分権のお題目に過ぎず、霞ヶ関の強固とした中央集権体制は微動だにしていない。
他方、小さな政府と言いながら、官の聖域にはメスが入れられず、むしろ巧妙化、悪質化、ステルス化(つまり、国民の目に見えにくくなっているということ)していると言っても過言ではない。天下りは減るどころかむしろ増加している。官製談合は、何も防衛施設庁に限った話ではない。天下りを受け入れさせるために、あらゆる省庁で常態化している。天下りのために作った公益法人では随意契約、指名競争入札が当たり前のように繰り返され、挙句の果てには人件費分の利ざやだけ抜き取って、さらに民間企業に丸投げしているケースも決して珍しくない。「官僚天国」は今も健在だ。
それでいて、小さな政府志向は様々なセーフティネットを破壊し続けている。どのように重い障害を持っていても、サービスを受ければ一律1割の負担を押し付けられる障害者自立支援法の「改悪」はその代表例だ。また、今の医療の問題は、医師不足、病院における医師と看護師の過酷な勤務実態による頻発する医療ミスなどを是正することが主眼に置かれなければならないが、医療費の公的負担を減らすため、過去最大の診療報酬の引き下げや高齢者の一部負担増などに終始した。一昨年の年金改正、昨年の介護保険見直しもそうだったが、サービス内容の改善ではなく、どうして国の負担を軽減するかのみに議論が偏っている。
天下りや官製談合、そして特別会計が抱える問題などは温存され、一律的な小さな政府路線でセーフティネットに穴が開き、個人間の格差、地域間の格差が拡大した。これが小泉政治5年半の「実績」ではないだろうか。外交も中国や韓国との関係が冷え切ったばかりではなく、強力な関係が誇示された日米関係も、実務レベルでは交流や人脈が先細り、極めてお寒い状況になってしまった。
このような政治を永らえさせ、政権交代につなげることが出来なかった最大の問題は、我々、民主党の力不足であることは率直に認めなければならない。代表経験者として、国民に対して心からお詫びしたい。しかし、変えなければならない。未来に希望をつなげなければならない。ただ批判をする野党から、建設的提案を行い、信頼され、期待される政党へ脱皮するために、これからも懸命に努力を重ねていきたい。
|